福島県立医科大学 研究成果情報

ドイツ科学誌「Psychopharmacology」掲載(7月号)(2021-08-31)

Effect of oxytocin nasal spray on auditory automatic discrimination measured by mismatch negativity

ミスマッチ陰性電位によって測定された聴覚自動識別機能に対するオキシトシンの効果

落合 晴香 (おちあい・はるか)
医学部 神経精神医学講座 客員研究員
        
研究グループ
Haruka Ochiai, Tetsuya Shiga, Hiroshi Hoshino, Sho Horikoshi, Kazuko Kanno, Tomohiro Wada, Yusuke Osakabe, Itaru Miura, Hirooki Yabe
精神疾患モダリティ統合チーム

概要

論文掲載雑誌「Psychopharmacology」(7月号)


オキシトシン(oxytocin, OXT)は末梢では、子宮収縮や乳汁分泌に関わるホルモンとして知られている。一方で中枢神経系では扁桃体を含む社会的な脳領域に作用し、信頼を基礎とするあらゆる人間相互間活動に影響することがわかってきている。

近年精神科領域においては、自閉症をはじめとする対人コミュニケーション障害の治療選択肢としてOXT点鼻薬が注目を浴びている。また、進行性に認知機能障害をきたす統合失調症の治療において、近年OXT点鼻薬による治療が社会機能、表情認知、臭覚識別機能を改善させるといわれている。

ミスマッチ陰性電位(mismatch negativity; MMN)は聴覚の自動的識別機能を反映する事象関連電位の1つである。統合失調症でのMMN振幅低下は生物学的異常所見の1つとしてよく知られており、これはこの疾患による認知機能低下を鋭敏に反映している。また、NMDA受容体との関連性が示されており、統合失調症のグルタミン仮説を裏付けている。

OXTが脳の社会機能障害に対してどのように影響するか明らかにされておらず、聴覚的識別を改善させるかの方法はまだ報告されていない。そのため本研究では、MMNを用いて比較決定段階でのOXTの効果を評価し、OXTが神経生理学的機能に影響を与えるかどうかを評価することにある。

本研究では、20歳以上の健常人40名を対象とし、二重盲検でOXT投与群とプラセボ投与群に無作為に割り付けた。今回、点鼻薬24IU投与前後にてMMNの測定を行い、ANCOVAにて解析を行った。結果はプラセボ投与群に比べてOXT投与群では、頂点振幅は変化なかったが、頂点潜時が優位に短縮した。この結果はOXTがMMNの発生源である上側頭回に影響を与え、聴覚識別の比較決定段階を促進する可能性を示唆している。


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