福島県立医科大学 研究成果情報

英国科学誌「Scientific Reports」掲載(令和3年7月19日)(2021-08-03)

Long-term observation of mortality among inpatients evacuated from psychiatric hospitals in Fukushima prefecture following the Fukushima nuclear disaster

福島原発事故後に県内精神科病院から避難した入院患者の死亡の長期観察

照井 稔宏 (てるい・としひろ)
医学部 神経精神医学講座 併任助教
        
研究グループ
照井稔宏1、國井泰人1,2、星野大1、各務竹康3、日高友郎3、福島哲仁3、安西信雄4
後藤大介1、三浦至1、矢部博興1
1 福島県立医科大学医学部神経精神医学講座
2 東北大学災害科学国際研究所・災害精神医学分野
3 福島県立医科大学医学部衛生学・予防医学講座
4 帝京平成大学大学院臨床心理学研究科

概要

論文掲載雑誌「Scientific Reports」(令和3年7月19日)


東日本大震災および福島第一原発事故により、相双地域を中心とした県内の精神科病院入院患者は、県内外への大規模な避難転院を余儀なくされました。精神科病院に限らず災害による病院避難は、避難それ自体が死亡リスクを上げると言われている一方で、病院に留まることと死亡との関連があるとの報告もあります。さらには、避難するか否かの二択に限らず、避難距離と死亡との関連についても幾つかの研究で指摘がありますが、明らかになっていません。この研究では、震災・原発事故により県内の精神科病院から他病院に避難転院をした入院患者を解析対象とし、避難後の長期予後と患者背景、特に避難距離(被災時入院病院と避難先病院との直線距離)の関連を調べることを目的としました。

解析の結果、年齢やいくつかの精神科診断/身体合併症で調整した後も、長い避難距離と低い死亡リスクとの関連を確認できました。この結果は、①現場医療者が長距離避難に身体的に耐えうる患者を非常に的確に振り分けていた可能性、②より近い避難先病院もまた被災しており、避難後ケアが逼迫していた可能性の2点を示唆するものと考えます。今日精神科病院入院患者の高齢化に伴い、身体合併症管理の必要性が叫ばれていることから、精神科病院は災害に対する脆弱性がますます懸念されます。災害派遣精神医療チーム(DPAT)を含めた、災害医療従事者によるトリアージや情報共有の継続的な訓練が重要です。

本研究は「福島県精神科病院入院患者地域移行マッチング事業」を立ち上げた福島県保健福祉部障がい福祉課との共同研究です。改めまして、本事業関係者の皆様に深く御礼申し上げます。そして、対象者の皆様の自分らしい地域移行の更なる実現をお祈り申し上げます。


連絡先

公立大学法人福島県立医科大学 医学部 神経精神医学講座 照井稔宏
電話:024-547-1331

FAX:024-548-6735

講座ホームページ:http://fmu-hpa.jp/neuropsy/index.html

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