
- 井上 直和 (いのうえ・なおかず)
- 細胞科学研究部門 教授
- 研究グループ
- 公立大学法人福島県立医科大学医学部附属生体情報伝達研究所細胞科研究部門
井上直和 主任教授、和田郁夫 名誉教授
国立大学法人静岡大学農学部応用生命科学科
齋藤貴子 助教
概要
論文掲載雑誌:「Cell Reports」(2025年4月22日)
哺乳類の受精は、精子側のIZUMO1が、卵子側のIZUMO1受容体JUNOを特異的に認識することで配偶子である精子と卵子が融合し、成立します。これまでIZUMO1-JUNO複合体を含め、細胞膜結合型の数種類の配偶子融合必須因子群 (卵子CD9、精子SPACA6、TMEM95、FIMP、TMEM81、DCST1、DCST2) が同定されていますが、これらの分子群がどのように作用し受精が成立するのかは不明でした。
今回の研究では、受精の成立には卵子の食作用に類似した生理反応 (SEAL: Sperm Engulfment Activated by IZUMO1-JUNO Linkage and gamete fusion-related factors) が必須であることを発見しました。つまり、精子が卵子に接着すると、最初に精子IZUMO1と卵子JUNOが結合することで配偶子間の認識が行われます。この反応には卵子表面に無数に存在する微絨毛が必要不可欠なので、正常な微絨毛形成に機能するCD9遺伝子が欠損すると雌性不妊になります。IZUMO1-JUNO複合体の成立後、卵子上の微絨毛は精子頭部に集合し、精子との接着面の先端が葉状に広がったラメリポディア様の特徴的な構造体である「Oocyte tentacle」を形成します。さらに、複数の細胞膜結合型の配偶子融合必須因子群 (精子SPACA6、TMEM95、FIMP、TMEM81、DCST1、DCST2) が協調して、まるで卵子が精子を食べるかのような「SEAL」を惹起し、配偶子融合を経て受精が成立します。また興味深いことに、SEAL形成後の卵子表面では、必ずJUNOが消失していることが分かりました。これは新たに2匹目の精子が卵子と受精しないようにする多精子受精拒否機構の一つだと考えられます。(井上直和)
本研究はマウスにおける研究成果ですが、マウスと同じ哺乳類であるヒトのSEAL形成装置の詳細な分子メカニズムの解明を通して、生殖生物学や不妊治療に資する基礎研究が大きく前進するものと考えられます。
なお本論文の内容は、世界的に注目度が高い研究成果として、Cell Reports誌2025年4月22日号 (掲載号) の表紙に採用されました。詳細は下記のURLをご参照ください。
https://www.cell.com/cell-reports/issue?pii=S2211-1247(25)X0004-8
連絡先
公立大学法人福島県立医科大学 医学部附属生体情報伝達研究所細胞科研究部門
電話:024-547-1663
FAX:024547-8898
講座ホームページ:https://www.fmu.ac.jp/home/cellsci/wp2/