福島県立医科大学 研究成果情報

スイス科学誌「Frontiers in Immunology」掲載(2025年3月)(2025-04-08)

Roles of MASP-1 and MASP-3 in the development of retinal degeneration in a murine model of dry age-related macular degeneration

萎縮型加齢黄斑変性モデルマウスの網膜変性における補体因子 MASP-1 と MASP-3 の役割

大森 智子 (おおもり・ともこ)
免疫学講座 博士研究員
        
研究グループ
大森智子¹ 町田豪¹ 石田由美¹ 石龍鉄樹² 関根英治¹
¹ 福島県立医科大学・免疫学講座 ²福島県立医科大学・眼科学講座(論文出版時)

概要

論文掲載雑誌:「Frontiers in Immunology」(2025年3月28日)


加齢黄斑変性は、50 歳以上の約60 人に1 人の割合で発症し、60 歳以上の失明原因として最も多い網膜変性疾患です。本学免疫学講座の大森智子博士研究員らは、萎縮型加齢黄斑変性のモデルマウスにおいて、2つの補体因子MASP-1 とMASP-3 が、網膜変性の発症に直接的に関与することを明らかにしました。
自然免疫の1つである補体系は、30 種類以上の補体因子とよばれるタンパク質で構成される生体防御機構です。補体は、古典経路、レクチン経路、第二経路のいずれかの活性化経路を通じて活性化し、C3 などの補体因子が病原微生物などの異物に結合することで食細胞による異物の貪食効率を高め、さらに炎症を引き起こして病原微生物に穴を開けることで異物を排除します。一方、無秩序な補体の活性化は過剰な炎症を引き起こし、さまざまな組織障害を引き起こすことが知られています。
これまで我々の研究グループは、MASP-1 はレクチン経路の活性化に、MASP-3 は第二経路の活性化に必須の補体因子であることを明らかにしてきました。さらに近年、眼科学講座との共同研究で、加齢黄斑変性の患者さんの眼内液(房水)中では、第二経路の活性化に加えて、古典経路またはレクチン経路の活性化が引き起こされていることを明らかにしてきました。
しかし、加齢黄斑変性の発症に、補体が直接的に関与するかどうかは不明のままでした。
そこで本研究では、野生型マウスや、MASP-1 またはMASP-3 を欠損したマウスに、ヨウ素酸ナトリウムを注入して萎縮型加齢黄斑変性様病変を誘導し、網膜組織の変化を比較検討しました。その結果、野生型マウスと比較して、MASP-1 またはMASP-3 を欠損したマウスでは網膜変性が著しく抑制され、特にMASP-3 を欠損したマウスでは、網膜組織における補体C3 の活性化や、アポトーシスに陥った細胞数が有意に減少していることを明らかにしました。
本研究は、補体因子MASP-1 またはMASP-3 を欠損した萎縮型加齢黄斑変性モデルマウスを用いて、網膜変性の発症に補体が直接的に関与することを初めて明らかにしました。今後は、MASP-1 やMASP-3 を標的とする萎縮型加齢黄斑変性の治療薬の開発が期待できるものと考えられます。(大森 智子)


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