福島県立医科大学 研究成果情報

米国雑誌「Science Advances」掲載(2025年1月)(2025-02-13)

Opioidergic activation of the descending pain inhibitory system underlies placebo analgesia

内因性オピオイドの活性化がプラセボ鎮痛効果を引き起こす神経生物学基盤を解明

加藤 成樹 (かとう・しげき)
生体機能研究部門 准教授


小林 和人(こばやし・かずと)
生体機能研究部門 教授
        
研究グループ
理化学研究所 生命機能科学研究センター
生体機能動態イメージング研究チーム
チームリーダー 崔 翼龍(現 兵庫医科大学 医学部脳腸相関機能解析学 特任教授)
研究員 根山 広行(現 京都大学 がん免疫総合研究センター 特定研究員)
リサーチアソシエイト 武 玉萍(現 発生エピジェネティクス研究チーム テクニカルスタッフⅠ)
研究員 清水 朋子
研究員 田原 強(現 分子標的化学研究チーム 客員研究員)
テクニカルスタッフⅠ 重田 美香
テクニカルスタッフⅠ 井上 道子

比較コネクトミクス研究チーム
チームリーダー  宮道 和成

健康・病態科学研究チーム
チームリーダー 渡辺 恭良(現 神戸大学 大学院科学技術イノベーション研究科 特命教授)

日本大学 歯学部薬理学
教授 小林 真之
専任講師 中谷 有香

福島県立医科大学 医学部 生体機能研究部門
教授 小林 和人
准教授 加藤 成樹

愛知医科大学 総合医学研究機構動物実験部門
准教授 松下 夏樹

東京大学 医科学研究所 実験動物研究施設 先進動物ゲノム研究分野
教授 真下 知士

大阪大学 医学部附属動物実験施設実験動物学
助教 宮坂 佳樹

兵庫医科大学 医学部解剖学神経科学部門
主任教授 戴 毅
客員教授 野口 光一

概要

論文掲載雑誌:「Science Advances」(2025年1月15日)


偽薬(プラセボ)は薬理作用がないにも関わらず、効果があると思い込むことで治療効果が得られることが医療現場で実証されていますが、その神経生物学的な実態については不明なことが多く、その応用は制限されています。今回の研究では、プラセボの投与により痛みを緩和する鎮痛効果が、生体内でどのような分子神経メカニズムにより引き起こされているかを明らかにしました。この成果によりプラセボ効果の理論的根拠が明らかになったことで、医療現場における治療効率の向上や薬剤の副作用・耐性および依存の予防に貢献することが見込まれます。

研究チームは、ラットの前頭前皮質内側部および腹外側中脳水道周囲灰白質と呼ばれる脳領域がプラセボ鎮痛効果に関わることを以前報告しましたが、どのように痛みを制御しているかは不明でした。そこで、新たな遺伝子導入システムと分子生物学技術を組み合わせて、前頭前皮質内側部から腹外側中脳水道周囲灰白質に連絡する神経伝達だけを選択的に抑制するモデルラットを作りました。次に、この動物にプラセボ鎮痛効果を誘導した結果、モルヒネ様の活性を持つ脳内の生理活性物質であるオピオイドの活性化によりプラセボ鎮痛効果が現れることを見出しました。さらに、オピオイドの活性化による下流の神経活動を特異的に抑制したり、関連の神経細胞を選択的に除去すると、プラセボ鎮痛効果が現れないことを発見しました。以上のことより、心理活動だけで痛みを緩和するプラセボの神経生物学的な実態は、プラセボによる期待感が前頭前皮質でのオピオイド系を活性化し、腹外側中脳水道周囲灰白質に投射する神経回路の脱抑制を介して、下行性疼痛抑制系を活性化することで鎮痛効果が現れる仕組みであると考えられます。

これらの研究手法は、今後プラセボ研究をはじめ、"心と脳"問題の科学的な理解に有効なアプローチを提供できると期待しています。

詳細は理化学研究所のホームページをご覧ください。

https://www.riken.jp/press/2025/20250129_1/index.html


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