
- 市村 祥平 (いちむら・しょうへい)
- 循環器内科学講座 助手
- 研究グループ
- 市村祥平、三阪智史、小河原崚、佐藤悠、三浦俊輔、横川哲朗、佐藤崇匡、及川雅啓、小林淳、義久精臣、竹石恭知
今回の受賞について
【日本心臓病学会】
日本心臓病学会は1987年に設立され、心臓病の臨床を中心テーマとしている。心臓病の成因、診断、治療を総合的に取り上げ、臨床心臓病学に関する諸問題を広く討議研究し、また臨床心臓病の診療と研究を目指す若手医師の教育にも重点をおいて活動して、日本における心臓病学の臨床ならびに研究のレベルを向上させ、もって人類の健康の増進と福祉の向上に貢献することを目的としている。
【賞について】
Young Investigator’s Awardは、独創的な臨床的研究の奨励と若手研究者の育成を目的としている。応募時点で学術団体発行の専門誌に採択されていない論文が対象で、一次選考、二次選考を経て、最優秀賞1名、優秀賞5名を選出する。
概要
拡張型心筋症(DCM)や心不全では、炎症はその病態で重要な役割を果たす。近年、好中球細胞外トラップ (NETs) が無菌性炎症の誘導因子として注目されているが、DCMにおける意義は未解明であった。そこで、NETsが心不全においてどのような役割を果たしているかを明らかにすることを目的とした。心内膜下心筋生検を施行したDCM患者連続62例を対象に、心筋生検検体の蛍光免疫染色にてNETsを同定した。DCM患者の心筋組織単位面積あたりのNETsの数は、心不全を有さない対照群と比較して有意に多く、左室駆出率と負の相関を認めた。NETsを有するDCM患者(n = 32)はNETsを有さないDCM患者(n = 30)と比較して、左室駆出率は低値で、B型ナトリウム利尿ペプチドは高値であった。心筋組織のNETsの存在は、心臓死、心不全増悪、補助人工心臓植込みを含む複合イベントのリスクと関連し、独立した予後規定因子であった。
次に、NETsの形成阻害が心不全の進展を抑制するかを、ex vivoおよびin vivoからアプローチして検討した。NETs形成に必須であるPeptidyl arginine deiminase 4(PAD4)のノックアウト(KO)マウスを用いた。細胞外フラックスアナライザー解析において、野生型(WT)マウス好中球からNETsを誘導したコンディショナル培地は、マウス単離心筋細胞のミトコンドリア機能を低下させたが、PAD4 KO好中球由来の培地はミトコンドリア機能を低下させなかった。横行大動脈縮窄による圧負荷心不全モデルでの検討において、WTマウスでは心筋組織のNETsは圧負荷後急性期をピークに誘導され、4週後までNETsが持続して認められ、左室駆出率の低下を認めた。一方、PAD4 KOマウスでは心筋組織にNETsは認められず左室駆出率は維持された。さらに、圧負荷後のPAD4 KOマウスから単離した心筋細胞のミトコンドリア機能は、WTマウスと比較して良好で、PAD4欠損が圧負荷ストレスによるミトコンドリア機能障害を軽減することが示唆された。
以上の結果から、心筋組織内のNETsはミトコンドリア機能障害を介して心機能障害と不良な転帰に関連し、NETs形成の阻害が心不全の新規治療ターゲットとなる可能性が示唆された。
(市村 祥平)
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