
- 目黒 了 (めぐろ・さとる)
- 泌尿器科学講座 助手
- 研究グループ
- 目黒 了1,2, 城村 由和2,3, Teh-Wei Wang2, 川上 聖司2, 谷本 翔汰2, 大森 徳貴2,4, 岡村 勇輝2, 星 誠二1, 加山 恵美奈1, 山口 貴世志5, 畠山 晴良5, 山崎 聡6, 清水 英悟7, 井元 清哉7, 古川 洋一5, 小島 祥敬1、中西 真2
1:福島県立医科大学 泌尿器科学講座
2:東京大学医科学研究所 癌防御シグナル分野
3:金沢大学 がん進展制御研究所 がん・老化生物研究分野
4:Infectious Disease and Microbiome Program, Broad Institute of MIT and Harvard
5:東京大学医科学研究所 臨床ゲノム腫瘍学分野
6:東京大学医科学研究所 細胞制御研究分野
7:東京大学医科学研究所 ヒトゲノム解析センター 健康医療インテリジェンス分野
概要
論文掲載雑誌:「Nature Aging」(September 9, 2024)
我々は今回の研究において、膀胱組織内にもともと存在する老化した線維芽細胞(老化線維芽細胞)がケモカインであるCXCL12を分泌することで膀胱癌の進行を促進することを報告しました。
様々なストレスにより細胞周期が恒久的に停止し細胞老化に至った細胞は老化細胞と呼ばれ、がんを含む様々な加齢性疾患に関連することが示唆されてきました。しかしながら、癌における細胞老化の役割は複雑であり、特に膀胱癌においては細胞老化が癌にどのような影響を与えるかは解明されていませんでした。
我々はこの研究において、老化細胞を可視化する遺伝子改変マウスを使用し、加齢に伴い膀胱組織内でこの老化線維芽細胞の数は増加することを確認しました。次にこのマウスの膀胱を使用し一細胞RNAシーケンシング解析を施行することで、膀胱組織内の老化細胞の中でも特に老化線維芽細胞からCXCL12が分泌されていることを確認し、またCXCL12が癌細胞の細胞増殖や血管新生を促進することで、膀胱癌の進行は助長されることを示しました。また、老化細胞の除去が可能となる遺伝子改変マウスや老化細胞除去薬(ABT263)の使用下においては膀胱癌の進行が抑制され、またCXCL12の阻害薬も同様に膀胱癌の進行を抑制することを示しました。加えて、我々は異なる2つのヒト膀胱癌のRNA発現データを使用し、加齢ともに老化線維芽細胞の数は増加し、膀胱癌の予後に関連することを示しました。
今回の研究を含め複数の論文において、動物モデルにおいては老化細胞の除去薬は癌治療として有用であることが報告されており、老化細胞の除去薬が膀胱癌に対する新たな治療戦略として臨床応用される可能性が示唆されました。(目黒 了)
連絡先
公立大学法人福島県立医科大学 医学部 泌尿器科学講座
電話: 024-547-1111(代)
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