
- 田辺 隼人 (たなべ・はやと)
- 糖尿病内分泌代謝内科学講座 助教
- 島袋 充生(しまぶくろ・みちお)
- 糖尿病内分泌代謝内科学講座 教授
- 研究グループ
- 田辺隼人1,2, 佐藤雅紘1, 三宅顕光3, 島尻佳典4, 小嶋崇史3,5, 成田 暁6, 齋藤 悠1, 田中健一7, 益崎裕章8, 風間順一郎7, 片桐秀樹2, 田宮 元3,6, 川上英良9,10, 島袋充生1
1. 福島県立医科大学 糖尿病内分泌代謝内科学講座
2. 東北大学大学院医学系研究科 糖尿病代謝・内分泌内科学分野
3. 東北大学大学院医学系研究科 AIフロンティア新医療創生分野
4. 医療法人太平会 キンザー前クリニック
5. 大阪大学大学院医学系研究科 遺伝統計学
6. 東北大学 東北メディカル・メガバンク機構
7. 福島県立医科大学 腎臓高血圧内科学講座
8. 琉球大学大学院医学系研究科 内分泌代謝・血液・膠原病内科学講座(第二内科)
9. 千葉大学大学院医学研究院 人工知能(AI)医学
10. 理化学研究所 情報統合本部 先端データサイエンスプロジェクト
概要
論文掲載雑誌:「Diabetologia」(August 21, 2024)
現在、糖尿病は1型と2型に分類されます。インスリン分泌能が枯渇する1型とインスリン分泌能は残っているがインスリン作用が低下する2型は、大きく異なる病態(原因)で起こると考えられています。なかでも2型糖尿病は、インスリン分泌低下とインスリン作用低下の程度が症例毎に大きく異なり、いまだに病態に基づいて最適な治療を選択することが困難とされます。
2018年、スウェーデンの研究グループは、人工知能の手法であるクラスター解析を用いて糖尿病を新たに分類することを試みました。その結果、糖尿病は5つのサブタイプに分類され、これらは従来の分類(1型、2型)よりも糖尿病合併症の予測に優れているとしました。2020年、福島県立医科大学 糖尿病内分泌代謝内科学講座の田辺、島袋らは、同様の手法を用いてこの分類が日本人糖尿病でも同じ5つのサブタイプに分類されることを報告しました。従来、欧米人と(日本を含む)アジア人では、2型糖尿病の病態が大きく異なるとされてきましたが、同じ5つのサブタイプにわけられることは、人種に関わらない普遍的な分類であることを示し大きな発見です。その後、サブタイプそれぞれに、糖尿病の合併症の起こり方、遺伝的な背景、治療反応性が大きく異なることが続々と明らかになっており、人工知能を用いた糖尿病治療の個別化に大きく役立つ分類と国内外の専門家から期待されています。しかしこれらクラスター分類の手法は、日常診療で入手困難な検査項目を要し、特殊な計算が必要、長期再現性に乏しいなど臨床現場での応用に多くの課題がありました。
今回、糖尿病内分泌代謝内科学講座と多施設共同研究チームは、臨床応用可能な糖尿病診断の人工知能(機械学習)モデルを開発しました。この予測モデルは、ランダムフォレスト(RF)とよばれる機械学習の手法(千葉大学大学院医学研究院 人工知能(AI)医学、理化学研究所医療データ数理推論チーム 川上英良教授 開発)を用いて、従来必須であった項目に欠損があっても日常臨床データのみで、世界中の臨床現場でリアルタイムのサブタイプ予測が可能となりました。さらに、このRFモデルは、(従来半年で変化するとされた)サブタイプの長期再現性を示すこと、異なるコホートでも高い精度を示しました(外的妥当性)。
このRFモデルによる糖尿病クラスター分類は、臨床現場の個々の症例で、合併症リスクや治療反応性を高い精度で予測することを可能にします。世界的に糖尿病クラスター分類手法の開発が待たれていた中、欧州糖尿病学会雑誌に受理・掲載されることから、今後RFモデルの世界的な普及が期待されます。これにより、糖尿病をもつ方、一人ひとりに対する個別化医療の実現が加速し、糖尿病治療に大きく貢献することが期待されます。(田辺 隼人)
連絡先
公立大学法人福島県立医科大学 医学部 糖尿病内分泌代謝内科学講座
電話:福島県立医科大学 糖尿病内分泌代謝内科学講座
TEL:024-547-1306
FAX:024-547-1311
講座ホームページ:http://fmudem.fmu.ac.jp/