- 市村 祥平 (いちむら・しょうへい)
- 医学部 循環器内科学講座 助手
- 三阪 智史(みさか・ともふみ)
- 医学部 循環器内科学講座 講師
- 研究グループ
- 市村祥平、三阪智史、小河原崚、冨田湧介、安齋文弥、佐藤 悠、三浦俊輔、横川哲朗、佐藤崇匡、及川雅啓、小林淳、義久精臣、竹石恭知
概要
論文掲載雑誌:「Circulation: Heart Failure」(June 7, 2024)
拡張型心筋症(DCM)や心不全では、炎症はその病態で重要な役割を果たす。近年、好中球細胞外トラップ (NETs) が無菌性炎症の誘導因子として注目されているが、DCMにおける意義は未解明であった。そこで、我々は心筋組織に存在するNETsが心不全においてどのような役割を果たしているかを明らかにすることを目的とした。心内膜下心筋生検を施行したDCM患者連続62例を対象に、心筋生検検体の蛍光免疫染色を行い、シトルリン化ヒストンH3+、好中球エラスターゼ+、DAPI+をNETsとして同定した。DCM患者の心筋組織単位面積あたりのNETsの数は、心不全を有さない対照群と比較して有意に多く、左室駆出率と負の相関を認めた。NETsを有するDCM患者(n = 32)はNETsを有さないDCM患者(n = 30)と比較して、左室駆出率は低値で、B型ナトリウム利尿ペプチドは高値であった。予後に関する検討では、中央値768日の観察期間において、心筋組織のNETsの存在は、心臓死、心不全増悪、補助人工心臓植込みを含む複合イベントのリスクと関連していた。
次に、NETsの形成阻害が心不全の進展を抑制するかを、ex vivoおよびin vivoからアプローチして検討した。NETs形成に必須であるPeptidyl arginine deiminase 4(PAD4)のノックアウト(KO)マウスを用いた。細胞外フラックスアナライザー解析において、野生型(WT)マウス好中球からNETsを誘導したコンディショナル培地は、マウス単離心筋細胞のミトコンドリア最大酸素消費速度を低下させたが、PAD4 KO好中球由来の培地はミトコンドリア最大酸素消費速度を低下させず、ミトコンドリア機能障害を誘導しなかった。横行大動脈縮窄による圧負荷心不全モデルでの検討において、WTマウスでは心筋組織のNETsは圧負荷後急性期をピークに誘導され、4週後までNETsが持続して認められ、左室駆出率の低下を認めた。一方、PAD4 KOマウスでは心筋組織にNETsの形成は認められず左室駆出率は維持された。さらに、圧負荷後PAD4 KOマウスからの単離心筋細胞のミトコンドリア最大酸素消費速度は、WTマウスと比較して高く、PAD4欠損が圧負荷ストレス下においてミトコンドリア機能を維持することが示唆された。
以上の結果から、心筋組織内のNETsはミトコンドリア機能障害を介して心機能障害と不良な転帰に関連し、NETs形成の阻害が心不全の新規治療ターゲットとなる可能性が示唆された。(市村 祥平)
連絡先
公立大学法人福島県立医科大学 医学部 循環器内科学講座
電話:024-547-1190
FAX:024-548-1821
講座ホームページ:https://www.fmu.ac.jp/home/int-med1/intmed1main.htm