福島県立医科大学 研究成果情報

米国科学誌「Communications Biology」掲載(令和6年5月7日)(2024-05-27)

Chemogenetic activation of mammalian brain neurons expressing insect Ionotropic Receptors by systemic ligand precursor administration

昆虫におい受容体を用いた哺乳類脳神経細胞のリモート活性化技術における嗅物質の脳移行性の改善

井口 善生 (いぐち・よしお)
生体機能研究部門 助教


小林 和人(こばやし・かずと)
生体機能研究部門 教授
        
研究グループ
福島県立医科大学医学部附属生体情報伝達研究所生体機能研究部門
 井口善生・深堀良二・加藤成樹・小林和人
福島県立医科大学医学部システム神経科学講座
 髙橋和巳・永福智志
福島県立医科大学医学部病態制御薬理医学講座
 前島裕子・下村健寿
大阪公立大学 大学院医学研究科健康長寿医科学講座(量子科学技術研究開発機構量子医科学研究所脳機能イメージング研究センター・理化学研究所 生命機能科学研究センター)
 水間広
理化学研究所 生命機能科学研究センター分子標的化学研究チーム
 馬渡彩
大阪公立大学研究推進機構協創研究センター創薬科学研究所(理化学研究所 生命機能科学研究センター分子標的化学研究チーム)
 土居久志
兵庫医科大学医学部脳腸相関機能解析学(理化学研究所 生命機能科学研究センター生体機能動態イメージング研究チーム)
 崔翼龍
神戸学院大学 薬学部神経精神薬理研究室(京都大学医学研究科附属脳機能総合研究センター)
 尾上浩隆
産業技術総合研究所健康医工学研究部門
 疋島啓吾
大阪大学大学院医学系研究科生体機能イメージング研究室
 小山内実
愛知県医療療育総合センター発達障害研究所分子病態研究部門(東京慈恵会医科大学 薬理学講座)
 西條琢磨
東京慈恵会医科大学薬理学講座
 籾山俊彦
ローザンヌ大学生物医学部
 リチャード・ベントン

概要

論文掲載雑誌:「Communications Biology」(May 7, 2024)


認知や行動を支える神経系の仕組みを理解するためには,任意のタイミングで標的神経細胞の活動を操作し,動物の認知・行動に及ぼす影響を検討する戦略が有効です。我々の研究グループは以前に,ショウジョウバエのにおい受容体IR84a/IR8a複合体が食物に含まれるフェニル酢酸によって活性化する仕組みを利用して,マウスの神経細胞の活性化を誘導する技術を世界に先駆けて発表していました(Fukabori, Iguchi et al., Journal of Neuroscience, 2020)。我々が“昆虫イオン透過型受容体神経細胞活性化(IR-mediated neuronal activation:IRNA)法”と名づけたこの技術は,遺伝子改変技術を用いてマウス脳内で標的神経細胞にIR84a/IR8a複合体を発現させ,フェニル酢酸との結合を介してこれらの神経細胞を選択的に活性化させます。しかし,血液脳関門を越えたフェニル酢酸の脳内へ送達は難しく,この点が課題として残されていました。本研究においてこの課題の克服に挑み,メチルエステル化したフェニル酢酸をプロドラッグとして用いた末梢投与-中枢移行戦略の確立を目指しました。親油性が高く血液脳関門を通過しやすいこのプロドラッグは,脳内のエステラーゼ活性によって活性化体であるフェニル酢酸に代謝されると考えました。実際に,マウスやラットの尾静脈や腹腔にフェニル酢酸メチルエステルを投与し,その直後に脳内でIR84a/IR8a複合体を発現する神経細胞が活性化することを確認しました。今後は,このIRNAプロドラッグ戦略を利用して動物の認知や行動を支える神経系の仕組みの全容解明をすすめるとともに,加齢や疾患によって機能低下した神経細胞を再活性化して脳機能の修復をはかる遺伝子治療の基盤技術の研究開発にも着手する予定です。

本研究の背景については,Springer Nature Research Communitiesにブログ記事として公開しています。(井口善生)

https://communities.springernature.com/posts/a-new-chemogenetic-system-using-ionotropic-receptors-from-the-fruit-fly-drosophila-melanogaster


連絡先

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 公立大学法人福島県立医科大学 医学部附属生体情報伝達研究所 生体機能研究部門

 教授・小林和人
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