福島県立医科大学 研究成果情報

英国雑誌「BMC Public Health」掲載(令和5年10月19日オンライン)(2023-12-05)

The “GU-GU-RU” project to eliminate discrimination related to the health effects of the Fukushima nuclear accident

福島原発事故の健康影響に関する差別をなくすための「ぐぐるプロジェクト」

アミール 偉 (あみーる・いさむ)
放射線健康管理学講座 助教
        
研究グループ
【本学】アミール 偉、五月女康作、小川総一郎、小島祥敬、田巻倫明、坪倉正治
【外部】江口有一郎(ロコメディカル総合研究所)

概要

論文掲載雑誌:「BMC Public Health」(令和5年10月19日オンライン)


 2021年3月に実施された環境省の全国調査より、「現在の放射線被ばくによる、福島県民の次世代への健康影響(遺伝的影響)が高い可能性で起こり得る(※)」と考える国民が、40%近くに上るという結果が明らかになりました。これをこのまま放置しておくと、今後も福島県出身者に対する差別や偏見が起こりかねません。この現状を踏まえ、環境省は、放射線被ばくに伴う健康影響に関する誤解、差別、偏見を払拭するため、2021年7月に「ぐぐるプロジェクト」(以下、「プロジェクト」)を立ち上げました。「プロジェクト」では、(※)と考える国民の割合を現状の40%から、2026年3月末までに20%へ半減させることを目標として設定しました。

 本論文は、「プロジェクト」の1年目(2021年7月〜2022年3月)の概要をまとめた上で、その目的と効果(初年度以降の成果)の評価を通じて、将来の放射線災害を含む大規模災害が発生した際の風評被害をなくすため、長期的に有効と思われる行政の施策を議論することを目的としています。

 「プロジェクト」では、ターゲットを「今後ライフイベント(進学、就職、結婚、妊娠、出産、子育て)を迎える世代」(10〜30代)と設定し、参加者が主体的に動けるようなプログラムを提供しています。具体的には、「知る」「学ぶ」「決める」「聴く」「調べる」の5つの事業で構成され、「知る」と「学ぶ」を統合させたプログラムには1,300名以上の学生が参加し、そのうち50名が自分自身での発表を行いました。また、マンガとのコラボレーションやテレビ番組の活用など、新たなアプローチ方法を取っていることが分かりました。

 東京電力福島第一原子力発電所事故から12年以上が経過する中、新型コロナウイルス等の影響もあり、事故の風化や無関心が広がっています。そのため、一度持った誤解を解消する機会が持てず、誤解をそのまま持っている人もいます。放射線被ばくに伴う健康影響(遺伝的影響)の誤解に基づいて生じる、差別や偏見をなくすためには、「プロジェクト」を通じて、科学的な事実や福島の現状に関する最新の情報を地道に提供・発信し、人々の知識をアップデートしていくことが必要です。

(アミール 偉)


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