- 井上 直和 (いのうえ・なおかず)
- 医学部附属生体情報伝達研究所 細胞科学研究部門 准教授
- 研究グループ
- 細胞科学研究部門 井上直和(准教授)、和田郁夫(主任教授)
概要
論文掲載雑誌「Biology of Reproduction」(令和4年1月4日)
哺乳類の受精を成立させるためには、精子が卵子に接着してからごく初期の段階で、精子側のIZUMO1と卵子側のIZUMO1受容体JUNOの相互作用が必要不可欠です。このことは、IZUMO1–JUNO複合体の細密立体構造が決定されている点で実証されていますが (Ohto et al., Nature 2016)、IZUMO1/JUNOの2因子だけで複雑な受精現象を説明するのは難しく、その仕組みは十分に解明されておりません。実際に、最近ゲノム編集を用いた解析により、精子上でIZUMO1以外に配偶子融合に機能する、sperm acrosome associated 6 (SPACA6)、transmembrane protein 95 (TMEM95)、 fertilization influencing membrane protein (FIMP)、 sperm–oocyte fusion required 1 (SOF1) 、dendritic cell-specific transmembrane protein domain-containing 1 (DCST1) とDCST2といった分子群が相次いで報告されました。特にTMEM95について、雄牛のTMEM95の161番目のシステインから終始コドンへの遺伝子変異 (TGC→TGA) により、低妊孕性の個体になることが知られていましたが、2020年になって、TMEM95欠損マウスが完全な雄性不妊になることが、2つ研究グループから報告されました (Lamas-Toranzo et al., eLife 2020; Noda et al., Proc Natl Acad Sci U S A 2020)。
本研究では、TMEM95のタンパク質合成がなされない開始メチオニンの欠損により、その雄マウスは完全な不妊症ではなく、雄牛の変異体と同様に低妊孕性になることを明らかにしました。これは、2020年に発表された論文と背反する結果です。また、配偶子融合必須因子である精子のSPACA6が、妊孕性のあるTMEM95やFIMP欠損雄マウスの成熟精子上から完全に消失することから、SPACA6は精子表面上には必要なく、いわゆるreceptor-ligand相互作用には機能していないことが分かりました。これらの結果から、哺乳類の精子と卵子の相互作用に本質的に必要な因子群が浮き彫りになりました。
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