福島県立医科大学 研究成果情報

英国科学誌「Scientific Reports」掲載(Apr 19;11(1):8464)(2021-05-18)

Changes in complement activation products after anti-VEGF injection for choroidal neovascularization in age-related macular degeneration and pachychoroid disease

加齢黄斑変性症およびパキコロイド関連疾患に対する抗VEGF注射後の補体活性化産物の変化

田中 啓一郎 (たなか・けいいちろう)
医学部 眼科学講座 大学院生
        
研究グループ
田中啓一郎、大口泰治、大森智子、石田由美、新竹広晃、冨田隆太郎、笠井暁仁、小笠原雅、菅野幸紀、板垣可奈子、小島彰、町田豪、関根英治、石龍鉄樹

概要

論文掲載雑誌:「Scientific Reports」(Apr 19;11(1):8464)


加齢黄斑変性症(AMD)は先進国における失明原因の第一位で、日本人でも多くの罹患者がいます。黄斑部に新生血管が生じ、進行すると不可逆的な視覚障害をきたします。病態には血管内皮増殖因子(VEGF)が深く関与しており、抗VEGF薬の硝子体投与によりAMDの視力予後が向上しました。現在では、この抗VEGF療法が第一選択となっていますが、抗VEGF薬の硝子体投与は継続投与が必要です。しかし、長期にわたる抗VEGF療法には網膜色素上皮細胞の萎縮が出現または進行しますが、この原因はまだわかっていません。
また、AMDには補体系の関与が関与されており、AMDの眼内液中の補体活性化産物C3aの濃度が高いことが報告されています。補体系は自然免疫機構のひとつで、炎症や細胞障害、アポトーシスなどに関与しています。
今回の研究では、抗VEGF療法により眼内液中の補体活性化産物が変化することを突き止めました。我々は、脈絡膜新生血管(CNV)を有する加齢黄斑変性の眼において、眼内液(前房水)の補体活性化産物(C3a、C4a)、VEGF、単球走化性タンパク質-1(MCP-1)の濃度を、抗VEGF療法の治療前後で測定し比較検討を行いました。
前房水中のVEGF濃度は治療後に有意に低下し、C3aおよびC4a濃度は有意に増加しました。治療前のVEGF濃度はC3a濃度と相関し、その相関性は治療前後で有意に変化していました。
研究の結果から、抗VEGF療法により補体活性化産物が増加することがわかりました。炎症や細胞障害、アポトーシスに関わる補体活性化産物が、抗VEGF療法により増加することから、長期にわたる抗VEGF療法での網膜色素上皮細胞の萎縮は、治療による補体活性化産物の上昇による細胞障害やアポトーシスに起因する可能性があると考えられました。


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