福島県立医科大学 研究成果情報

英国科学誌「Frontiers in Psychiatry」掲載(令和3年3月18日)(2021-04-19)

Detailed postmortem profiling of inflammatory mediators expression revealed post-inflammatory alternation in the superior temporal gyrus of schizophrenia

統合失調症の上側頭回における炎症性メディエーター発現の詳細なプロファイリングにより明らかになった炎症後変化

泉 竜太 (いずみ・りゅうた)
医学部 神経精神医学講座 大学院生
        
研究グループ
泉 竜太1,2, 日野 瑞城1, 和田 明3, 長岡 敦子1, 河村 隆4, 森 努4, 斉ノ内信5, 柿田 明美5, 笠井 清登3, 國井 泰人 1,6* 矢部 博興1
1)福島県立医科大学 医学部 神経精神医学講座
2)一般財団法人 竹田健康財団 竹田綜合病院
3)東京大学大学院医学系研究科精神医学
4) 福島県立医科大学 医学部看護学部 生命科学部門
5) 新潟大学 脳研究所 病理学分野
6) 東北大学 災害科学国際研究所 災害精神医学分野

概要

論文掲載雑誌:「Frontiers in Psychiatry」(令和3年3月18日)


近年の研究により、統合失調症の病態に炎症が関連していることが示唆されています。統合失調症の急性期において、血清での炎症性サイトカインが上昇していることが報告されており、また、いくつか死後脳の研究でも、インターロイキン(IL) -1βなどの炎症性サイトカインの発現の変化が報告されています。

しかし、死後脳の知見の集積はまだ充分でなく、すでに調査されている炎症性サイトカイン以外の炎症性メディエーターについても網羅的な解析が必要とされています。

今回私たちは、統合失調症の24例、非精神疾患対照の26例の死後脳上側頭回検体についてマルチプレックス法を使用し、炎症性メディエーター30分子のタンパク質発現を網羅的に分析しました。また、炎症性メディエーターのタンパク質発現パターンに基づくクラスタリング解析を行い、各クラスターに対し、Ingenuity Pathway Analysis (IPA)を用いて上流転写因子の分析を行いました。

その結果、炎症性メディエーターは全体としてはほとんど変化していませんでしたが、IL-1α、インターフェロンガンマ誘導性タンパク質(IP)-10のタンパク質発現は減少し、IFN-αのタンパク質発現は増加していました。また、その後の上流転写因子解析の結果、今回発現の抑制を認めたIL-1αおよびIP-10がRELAなどの共通の転写調節因子によって誘導される可能性があることが示唆されました。

この研究ではタンパク質の網羅的解析を使用して、以前は報告されていなかった詳細なタンパク質の変化を特定しました。これらの結果は、急性期の炎症の感作後の炎症性メディエーターの変化についての示唆を与えてくれます。今後、さらに統合失調症の病態への炎症の関与が明らかになるに従い、これまでとは異なる機序の治療法の開発につながることが期待されます。

なお、福島精神疾患ブレインバンクおよび新潟脳研究所に献体頂いた提供者ご本人、ご家族および支援者の方々に心より御礼申し上げます。


連絡先

公立大学法人福島県立医科大学 医学部 神経精神医学講座

職・氏名:大学院生 泉 竜太

電話:024-547-1331

FAX:024-548-6735

メールアドレス:rizumi@fmu.ac.jp(スパムメール防止のため、一部全角表記しています)