福島県立医科大学 研究成果情報

米国がん学会誌「Molecular Cancer Research」掲載(3月・オンライン版)(2021-04-09)

Neoadjuvant chemotherapy induces IL-34 signaling and promotes chemoresistance via tumor-associated macrophage polarization in esophageal squamous cell carcinoma

食道扁平上皮癌における術前補助化学療法が誘導するIL-34が腫瘍随伴マクロファージのM2分化を促進することで薬剤感受性を低下させる

中嶋 正太郎(なかじま・しょうたろう)
医学部 消化管外科学講座 講師

河野 浩二(こうの・こうじ)
医学部 消化管外科学講座 主任教授

        
研究グループ
Shotaro Nakajima, Kosaku Mimura, Katsuharu Saito, Aung Kyi Thar Min, Eisei Endo, Leo Yamada, Koji Kase, Naoto Yamauchi, Takuro Matsumoto, Hiroshi Nakano, Yasuyuki Kanke, Hirokazu Okayama, Motonobu Saito, Prajwal Neupane, Zenichiro Saze, Yohei Watanabe, Hiroyuki Hanayama, Suguru Hayase, Akinao Kaneta, Tomoyuki Momma, Shinji Ohki, Hiromasa Ohira, and Koji Kono

概要

論文掲載雑誌:「Molecular Cancer Research」(3月・オンライン版)


 シスプラチン+フルオロウラシルを2コース施行する術前補助化学療法(以下NAC)は食道癌で有効性が認められる重要な治療法であるが、抗がん剤への感受性が低い(自然耐性)患者では術前治療中に病態が進行するケースや根治手術後に早期に再発し不良な転帰をたどるケースが存在します。近年、固形がんの薬剤感受性および耐性に腫瘍微小環境が及ぼす影響が徐々に明にされつつあり、中でも腫瘍随伴マクロファージ(以下TAM)は、腫瘍組織に浸潤する細胞のおよそ50%を占め、抗腫瘍免疫を抑制することが知られています。また最近の研究では、TAMが抗がん剤への感受性低下や耐性にも負の影響を及ぼす可能性が示唆されています。本研究では、食道扁平上皮癌(以下ESCC)におけるNACによる腫瘍微小環境の変化やTAMへの影響を解析することで、ESCCのNACに対する自然耐性の新たなメカニズムの解明を試みました。

 NACを受けていないESCC患者およびNACを受けたESCC患者の腫瘍組織生検標本と手術摘出標本を用いて、NAC前後におけるCD163(TAMマーカー)の発現レベルの変化を免疫組織化学染色により解析したところ、NACによりCD163陽性細胞(TAM)数とその発現強度の有意な増加が観察されました。また、TAMの腫瘍組織での分化・極性に関与するサイトカインとしてCSF-1およびIL-34の免疫組織化学染色を行いNAC前後における発現変化を解析したところ、NACにより腫瘍細胞から産生されるCSF-1の発現レベルに変化は見られなかったものの、IL-34の発現レベルが有意に増加することが明らかとなりました。NAC後のESCC組織切片におけるCD163陽性細胞(TAM)数と腫瘍細胞のIL-34産生レベルに有意な相関が見られたことから、NACによるTAMの分化・極性にはIL-34が関与する可能性が示唆されました。さらにNACへの感受性が低い患者においてTAMの増加が顕著に見られ、ESCCにおけるIL-34の産生が高い患者では抗がん剤への感受性が低く、再発率が高いことも明らかとなりました。本研究の成果は、既存の化学療法に加え腫瘍微小環境におけるIL-34産生やIL-34標的細胞への結合を阻害することでNACへの感受性低下や予後不良を改善できる可能性が示唆するものと考えられ、今後のさらなる研究が期待されます。


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