福島県立医科大学 研究成果情報

第108回日本泌尿器科学会総会 International Session Award(令和2年12月受賞)(2021-03-15)

SNP analysis in the Japanese hypospadias cohort identified risk-related genes that might affect the external genitalia formation during fetal stage.

胎生期外性器形成における日本人尿道下裂発症リスク関連遺伝子の 役割

胡口 智之 (こぐち・ともゆき)
医学部 泌尿器科学講座 助教
        
研究グループ
胡口智之1,2)、小名木彰史1)、丹治亮1,2)、星誠二1)、秦淳也1)、佐藤雄一1)、赤井畑秀則1)、片岡政雄1)、小川総一郎1)、羽賀宣博1)、栁田知彦2)、村上房夫2)、小島祥敬1)
1)福島県立医科大学医学部泌尿器科学講座
2)一般財団法人太田綜合病院太田西ノ内病院泌尿器科

今回の受賞について

第108回日本泌尿器科学会総会


日本泌尿器科学会は、明治45年に泌尿器科学の進歩と普及を図り、学術の発展と国民の健康の増進に寄与することを目的として設立されました。同年に第1回総会(学術大会)が開催され、昨年12月には第108回日本泌尿器科学会総会が開催されました。

賞について


International Session Awardは、日本泌尿器科学会総会時の国際セッション応募演題から領域別に優秀演題を選出しています。本演題は、第108回日本泌尿器科学会総会の国際セッションPediatric Urology & Urethroplasty部門において賞を受賞しました。

概要

これまで尿道下裂の発症には、胎児の発生段階に応じて、様々な遺伝子の影響が報告されています。外性器形成の後期には、性ホルモンの影響が強く、男性ホルモンの生合成や受容体の異常が尿道下裂の発症に影響することが知られています。また、発生前期には性ホルモンの関与は少なく、代わりに成長因子や転写因子に関連した遺伝子群が影響します。

一方、近年、欧米人尿道下裂症例を用いたゲノム解析により、これまで注目されてこなかった新しい経路として代謝酵素であるDGKKが発症リスクに大きく影響することが明らかになりました。DGKKはイノシトールリン脂質代謝に関与する酵素遺伝子であり、細胞内のジアシルグリセロールをリン酸化することでシグナル伝達を制御する機能を持っていることから、この機能の破綻が尿道形成に影響することが推測されます。

今回、我々は日本人尿道下裂症例のゲノム解析を行うことで、尿道下裂の発症リスクに影響する新しい代謝遺伝子としてHAAOを同定しました。HAAOは、細胞内のトリプトファン代謝に関与する酵素遺伝子であり、この代謝経路の基質や代謝産物は、ダイオキシン受容体の活性化や性ホルモンの分泌制御に関連することが報告されています。このことから、HAAOは外性器形成において間接的な作用をすることで尿道下裂の発症に影響した可能性が示唆されました。また、雄マウス胎仔の外性器を免疫組織化学染色で評価すると、外性器の位置によってHAAOの発現が変化している結果が得られました。トリプトファン代謝の最終産物は、エネルギー産生や補酵素作用を持つNADであることが知られています。これらのことから、今回我々が同定したHAAOによる代謝状態の変化は、ホルモンを介した全身性の作用や外性器局所における酵素機能障害を引き起こすことで尿道形成に影響する可能性が考えられ、尿道下裂発症のリスク遺伝子となった可能性が推察されました。

 

 


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