福島県立医科大学 研究成果情報

米国雑誌「scientific reports」掲載(令和3年2月)(2021-02-25)

PD‐L1 overexpression in EBV‐positive gastric cancer is caused by unique genomic or epigenomic mechanisms

EBV関連胃癌におけるPD-L1高発現は、特徴的なゲノムもしくはエピゲノム異常により引き起こされる

仲野 宏(なかの・ひろし)
医学部 消化管外科学講座 病院助手

齋藤 元伸(さいとう・もとのぶ)
医学部 消化管外科学講座 講師

河野 浩二(こうの・こうじ)
医学部 消化管外科学講座 主任教授

        
研究グループ
【福島県立医科大学 消化管外科学講座】仲野宏、齋藤元伸、中嶋正太郎、齋藤勝治、加瀬晃志、山田玲央、菅家康之、花山寛之、小野澤寿志、岡山洋和、藤田正太郎、坂本渉、佐瀬善一郎、門馬智之、三村耕作、大木進司、河野浩二
【山梨大学 外科学講座第1教室】中山裕子
【秋田大学器官病態学講座】後藤明輝

概要

論文掲載雑誌:「scientific reports」(令和3年2月)


 胃癌の約10%を占めるEBV関連胃癌ではARID1AやPIK3CA遺伝子変異、さらにCD274(PD-L1)を含む9p24領域の増幅といった特徴的なゲノム異常を認めます。また、EBV関連胃癌はDNAプロモーターの高メチル化やリン酸化といったエピゲノム異常も伴うことから、EBV関連胃癌には特異的な遺伝子発現の制御機構が存在することが近年の研究で明らかになってきました。

 今回我々はEBV関連胃癌におけるPD-L1発現を司る機序の解明を試みました。本研究では、まず、当科で手術を行なった胃癌切除検体におけるPD-L1発現を免疫染色にて評価し、EBV関連胃癌はPD-L1高発現群と中~低発現群とに大別され、PD-L1高発現群では腫瘍のCD8陽性リンパ球浸潤と相関を示さないのに対し、中~低発現群ではそれと正の相関を示すことを見出しました。TCGAデータベースを用いた同様の解析にて、EBV関連胃癌のCD274(PD-L1)高発現群は我々の検体解析同様にリンパ球浸潤と相関せずCD274遺伝子の増幅に伴うゲノム異常が起因となることが確認されました。一方、CD274中~低発現群はリンパ球浸潤、さらにはIFN-γ発現と正の相関を示すことを見出しました。ここで我々はEBVのnon-coding RNAがもたらすエピゲノム異常であるIRF3のリン酸化に伴うIFN発現制御に着目したところ、EBV関連胃癌にてIRF3は活性化されておりIFN-γ発現、さらにCD274発現と正の相関を示すことを見出しました。当科の胃癌切除検体においても、IRF3の活性化がEBV関連胃癌で特異的に起きていることが免疫染色にて確認されました。以上より、EBV関連胃癌におけるPD-L1高発現の機序として、CD274遺伝子増幅に伴うPD-L1発現というゲノム異常とEBV感染に伴うIRF3活性化を介したPD-L1発現というエピゲノム異常の2つが存在することが明らかとなりました。


連絡先

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