福島県立医科大学 研究成果情報

米国雑誌「Investigative Ophthalmology & Visual Science」掲載(Nov 2;61(13):39.)(2021-02-12)

Complement Activation Products and Cytokines in Pachychoroid Neovasculopathy and Neovascular Age-Related Macular Degeneration

パキコロイド血管新生黄斑症と滲出型加齢黄斑変性における補体活性化タンパクとサイトカイン

加藤 寛 (かとう・ゆたか)
医学部 眼科学講座 専攻医
        
研究グループ
加藤寛、大口泰治、大森智子、新竹広晃、富田隆太郎、笠井暁仁、小笠原雅、菅野幸紀、板垣可奈子、小島彰、町田豪、関根英治、石龍鉄樹

概要

論文掲載雑誌:「Investigative Ophthalmology & Visual Science」(Nov 2;61(13):39.)


 滲出型加齢黄斑変性(以下、加齢黄斑変性)は、中高年において黄斑部に病的血管が生じ、進行すると不可逆的な視覚障害をきたすため、眼科臨床の中でも重要な疾患です。欧米で多い疾患でしたが、最近、日本人にも増加しています。その眼底所見の特徴などから日本人の加齢黄斑変性の中には異なる病態が含まれているのではないかと言われていましたが、その病態の差異は明らかではありませんでした。今回の研究では、眼内液の成分を調べ、病態の違いにより、免疫に関係する補体の成分が異なっている事をつき止めました。

 一般に加齢黄斑変性では、眼底にドルーゼンという沈着が生じ、網膜を栄養する脈絡膜は菲薄化します。この病型は欧米人に多く見られます。しかし、日本人やアジア人にはドルーゼンがなく、脈絡膜が厚いタイプの黄斑変性が存在することが知られていました。この病態は、従来の加齢黄斑変性とは異なるのではないかという報告が増えてきました。最近、このアジア人に多い病型を「パキコロイド血管新生黄斑症(PNV)」としたほうが良いのではないかという案が提唱されました。しかし、この病型を特徴付けるのは臨床所見のみでした。

 血管新生には血管内皮増殖因子(VEGF)といったサイトカインが重要な役割を果たしますが、遺伝学的な研究などから自然免疫を担う補体系の関与が示唆されています。我々は、欧米に多いタイプの加齢黄斑変性(tAMD)とPNVを分けて眼内液(前房水)における補体活性化タンパク(C3a、C4a、C5a)およびサイトカイン(VEGF、MCP-1)を測定し比較検討を行いました。対照群としての白内障手術患者33名を含む計105名105眼から前房水を採取しました。

 前房水中のVEGF濃度は、tAMD群とPNV群のどちらにおいても対照群と比較し有意に高値でした。一方、C3a濃度は、tAMD群は対照群より有意に高値でしたが、PNV群は対照群と有意差を認めませんでした。欧米に多いタイプの加齢黄斑変性とは異なりPNVでは、補体の活性化を表すC3aの上昇なしに、VEGFが上昇していると考えられました。

 研究の結果から、PNVは欧米人に見られる加齢黄斑変性とは異なるメカニズムで発症していることが裏付けられました。現在は、PNVは加齢黄斑変性と同様の治療が行われていますが、その血管新生に至る病態は異なっていることから、今後異なるアプローチで治療ができる可能性があることが示唆されます。


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