福島県立医科大学 研究成果情報

米国雑誌「Frontiers in Cardiovascular Medicine」掲載(令和2年10月号)(2021-01-29)

Red blood cell distribution width is a predictive factor of anthracycline-induced cardiotoxicity

赤血球容積粒度分布幅(RDW)によるアントラサイクリン心筋症の予測

八重樫 大輝 (やえがし・だいき)
医学部 循環器内科学講座 助手
        
研究グループ
八重樫大輝、及川雅啓、横川哲朗、三阪智史、小林淳、金城貴士、義久精臣、中里和彦、石田隆史、竹石恭知
(循環器内科学講座)

概要

論文掲載雑誌:「Frontiers in Cardiovascular Medicine」(令和2年10月号)


 がん患者の長期予後に影響を及ぼす因子として循環器疾患の占める位置は重要です。特にアントラサイクリン心筋症は予後不良の循環器合併症ですが、その発症を予測することは難しく、発症を早期に発見し治療することが求められています。既知のアントラサイクリン心筋症のリスク因子の多くが抗がん治療に関連した項目であり、抗がん治療が開始される前により精度良く評価できる予測因子が求められています。

 赤血球容積粒度分布幅(RDW)は心不全など多くの循環器疾患の予後と関連していることが知られていますが、アントラサイクリン心筋症との関連性については不明です。そこで今回我々は、RDWがアントラサイクリン心筋症の予測因子となりうるかを検討しました。

 対象は当院で2017年2月から2019年6月までに登録されたアントラサイクリン系抗がん剤を初回使用した連続202例です。化学療法開始前のRDWを中央値で2群(低RDW群 n=98, 13.0[12.6-13.2]; 高RDW群, n=104, 14.9[13.9-17.0])に分け,化学療法前,3か月後,6か月後,12か月後に心機能の観察を行ないました。

 原疾患の内訳は乳がん104例(51.5%)、血液腫瘍53例(26.3%)、婦人科腫瘍24例(11.9%)、骨軟部腫瘍17例(8.4%)でした。両群間に化学療法前の左室拡張末期容積係数や左室収縮末期容積係数、左室駆出率(EF)に差は認められませんでした。化学療法後、高RDW群で経時的なEFの低下が認められました(開始前, 64.5%[61.9%-68.9%]; 3か月後, 62.6%[60.4%-66.9%]; 6か月後, 63.9%[60.0%-67.9%]; 12か月後, 64.7%[60.8%-67.0%], P=0.04)が、低RDW群では変化は認めませんでした。化学療法開始から1年以内の心筋症発症の頻度は、低RDW群で2例(2.0%)でしたが、高RDW群では12例(11.5%)でした(P<0.05)。ロジスティック回帰分析では、化学療法前のRDW値が1年以内の心筋症発症を予測する独立した因子であることが示されました(OR 5.533, 95% CI[1.017-30.116],P<0.05)。さらにNRIとIDIという統計手法を用いて既知のリスク因子にRDWを追加することで心筋症発症の予測精度が増すかどうかを検討したところ、どちらもP値=0.05を下回ったため、RDWの追加は予測モデルをより精度の高いものに向上させていることが示されました。

 以上より、化学療法前のRDW値はアントラサイクリン心筋症の発症を予測するマーカであることが分かりました。


連絡先

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