福島県立医科大学 研究成果情報

国際科学誌「Gastric Cancer」掲載(2020年9月)(2020-10-01)

Immune Suppression caused by PD-L2 expression on tumor cells in gastric cancer.

胃癌におけるPD-L2を介した免疫抑制機構

中山 裕子(なかやま・ゆうこ)
医学部 消化管外科学講座 博士研究員

三村 耕作(みむら・こうさく)
医学部 消化管外科学講座 准教授

河野 浩二(こうの・こうじ)
医学部 消化管外科学講座 主任教授

        
研究グループ
【福島県立医科大学 消化管外科学講座】中山裕子、三村耕作、岡山洋和、Aung Kyi Thar Min、齋藤勝治、花山寛之、渡辺洋平、齋藤元伸、門馬智之、佐瀬善一郎、大木進司、河野浩二
【福島県立医科大学 放射線治療学講座】鈴木義行
【山梨大学 外科学講座第1教室】市川大輔
【National University of Singapore】Ley-Fang Kua、Wei-Peng Yong

概要

論文掲載雑誌:「Gastric Cancer」(2020年9月)


 近年、進行・再発胃がんの3次治療としてnivolumab(抗PD-1抗体)を用いた免疫療法が行われています。しかし、その奏効率は約11.9%であり、更なる効果増強方法の開発やバイオマーカーの同定が必要であると考えられています。Nivolumabは、T細胞に発現しているPD-1と結合して、がん細胞の免疫逃避を防ぐ薬剤です。PD-1のリガンドにはPD-L1とPD-L2が存在するので、nivolumabの効果予測には、両者の発現を調べなくてはなりません。しかし、胃がんにおけるPD-L2の臨床的・免疫学的な意義は十分に解明されていないため、今回私達のグループは、胃がんにおけるPD-L2の発現頻度、PD-L2の発現機序、PD-L2を介する免疫抑制について検討しました。

 The Cancer Genome Atlasのstomach adenocarcinoma tissue dataset (n=269)を用いて胃がんにおけるPD-L2の発現について解析したところ、その発現を認め、更に、PD-L1と共発現している傾向にあることが分かりました。また、当科で手術を施行された胃がん194例でPD-L2の発現を免疫染色で検討しました。その結果、がん細胞において、PD-L2は28.4%(55例)で発現しており、PD-L1と共発現している症例も16.0%(31例)存在しました。また、PD-L2の発現は、がんの進行に伴い強くなる傾向にありました(p=0.0001)。続いて、胃がん細胞におけるPD-L2の発現機序について検討しました。今回の研究により、一部の胃がん細胞のPD-L2がIFN-γ、IL-4によって増強されること、また、TNFやNF-kB経路を介してPD-L2の発現が制御されている可能性が示唆されました。本研究の最後として、胃がん細胞におけるPD-L2を介した免疫抑制について検討しました。その結果、PD-L1と同様にPD-L2によっても免疫抑制は起きており、この抑制はPD-1経路をブロックすること(すなわち抗PD-1抗体の作用)で回避されることも確認出来ました。これらの結果は、世界で初めての報告となります。

 本研究により、胃がん細胞にはPD-L1ばかりではなく、PD-L2も発現していること、そして、その両者によってT細胞の免疫抑制が起こっていることが解明されました。これらの結果より、胃がんの実臨床でnivolumabの適応を決める際には、PD-L1の発現と同様にPD-L2の発現も考慮するべきであることが強く示唆されます。本研究成果が、今後のnivolumabを用いた胃がん治療のバイオマーカー同定に寄与することが大いに期待されます。


連絡先

 公立大学法人福島県立医科大学 医学部 消化管外科学講座
 電話:024-547-1111

 FAX:024-547-1980
 講座ホームページ:http://www.gi-t-surg.com/

 メールアドレス:gi-tsurg@fmu.ac.jp(スパムメール防止のため、一部全角表記しています)