福島県立医科大学 研究成果情報

米国科学誌「The Journal of Biological Chemistry」掲載(2020年7月23日online掲載)(2020-09-08)

Amyloid precursor protein 770 is a promising biomarker for platelet activation

血小板の活性化マーカー、アミロイド前駆体タンパク質770の解析

三浦 里織 (みうら・さおり)
新医療系学部設置準備室 助教
        
研究グループ
福島県立医科大学
 新医療系学部設置準備室 (保健科学部(仮称) 臨床検査学科) 三浦里織 豊川真弘 小川一英 北爪しのぶ
 循環器内科学講座 義久精臣 三阪智史 八巻尚洋 竹石恭知
 脳神経外科学講座 小島隆生
 臨床検査医学講座 志村浩己
東京都医学総合研究所
 細胞膜研究室 笠原浩二

概要

論文掲載雑誌:「The Journal of Biological Chemistry(2020年7月23日 online 掲載)


 本論文の内容は、福島県立医科大学 新医療系学部設置準備室、循環器内科学講座、脳神経外科学講座、臨床検査医学講座および東京都医学総合研究所の共同研究として行った研究の成果になります。

 血小板の活性化によって生じる血栓は、冠動脈疾患*や脳血管疾患を引き起こし、時に致命的となります。そのため、抗血小板薬による血栓閉塞防止のための治療が行われますが、一方で、長期にわたる抗血小板薬の服用は重篤な出血リスクを伴います。また、抗血小板薬の効果は患者によって異なるため、患者ごとに抗血小板薬の投与方法を至適化することが望ましいものの、抗血小板作用のモニタリング方法は確立されていません。本研究では、私達が見出した血小板活性化マーカー候補分子、可溶型のアミロイドβ前駆体タンパク質770 (sAPP770)の有用性に関して解析を進めました。

 アミロイドβ前駆体タンパク質(Amyloid precursor protein:APP)にはAPP695、APP751、APP770の3種のアイソフォームが存在します。中でも、APP695は神経細胞に多く発現し、アルツハイマー病の原因となるアミロイドβを産生するタンパク質とされています。

 私達は、AAP770が血管内皮細胞に発現し血小板に多く含まれており、血小板活性化に伴い、大量に放出されることやAPP770は細胞膜の外側でプロテアーゼによって切断され、可溶性APP770(sAPP770)となり、このsAPP770を特異的に測定するELISAキット作成したことを報告してきました。さらに、炎症性サイトカインは血管内皮細胞から分泌されるsAPP770を増加させることも見出してきました。

 本研究では、血小板の活性化に伴いsAPP770は血小板から放出される機能が、冠動脈疾患*患者における血小板活性化のバイオマーカーとなり得るかを検討しました。その結果、sAPP770値は抗血小板薬2剤併用療法**の患者血漿中で、抗血小板薬投与を受けていない患者血漿より有意に低値であることが明らかとなりました。さらに、sAPP770と既存の血小板活性化マーカーであるsCD40リガンドを比較検討したところ、sCD40リガンドは活性化T細胞にも発現することが確認された一方で、sAPP770は血小板以外の血球細胞での発現は認められなかったことから、sAPP770はsCD40リガンドに比較し、より血小板に特異的なマーカーであることがわかりました。

 このことから、sAPP770は血小板活性化を反映するバイオマーカーとなり得る可能性が示唆されました。抗血小板薬投与を必要とする患者において、適正な抗血小板薬投与をモニタリングする指標となり、より有効な治療計画を実施するために役立つことが期待されます。

 本研究は、文部科学省科学研究費補助金、糖鎖利用による革新的創薬技術開発事業(AMED)などの研究助成により実施しました。

〈注 釈〉

冠動脈疾患*:動脈硬化症を原因とし、血管が狭くなり、血管壁が硬くなる状態

抗血小板薬2剤併用療法**:アスピリンとP2Y12阻害薬であるチエノピリジン系薬剤を併用


連絡先

公立大学法人福島県立医科大学 新医療系学部設置準備室

 教授 北爪しのぶ

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