福島県立医科大学 研究成果情報

独国科学誌「Cancer Immunology, Immunotherapy(2020年1月号(69巻第1号)) 」掲載(2019年12月6日オンライン)(2020-03-14)

Tumor mutation burden and immunological, genomic, and clinicopathological factors as biomarkers for checkpoint inhibitor treatment of patients with non-small-cell lung cancer.

非小細胞肺癌に対する免疫チェックポイント阻害薬の効果予測因子を視野に入れた,腫瘍の遺伝子変異数と免疫学的・遺伝子的・臨床的因子との関連性

尾崎 有紀 (おざき・ゆき)
医学部 呼吸器外科学講座 助手
        
研究グループ
【呼吸器外科学講座】
Ozaki Y, Muto S, Takagi H, Watanabe M, Inoue T, Fukuhara M, Yamaura T, Okabe N, Matsumura Y, Hasegawa T, Ohsugi J, Hoshino M, Shio Y, Suzuki H.
(尾崎有紀、武藤哲史、髙木玄教、渡部晶之、井上卓哉、福原光朗、山浦 匠、岡部直行、松村勇輝、長谷川剛生、大杉 純、星野実加、塩  豊、鈴木弘行)
【トランスレーショナルリサーチセンター】
Tanaka D, Nanamiya H, Imai JI, Isogai T, Watanabe S.
(田中大輔、七宮英晃、今井順一、磯貝隆夫、渡辺慎哉)

概要

 近年、免疫チェックポイント阻害薬による癌治療が広く行われるようになってきました。その効果を予測するためのバイオマーカーの研究は日々行われていますが、未だ確立されたものはありません。肺がんに対する免疫チェックポイント阻害薬のバイオマーカーとしての可能性が注目されているものの1つに、腫瘍細胞内の遺伝子変異数(TMB)がありますが、その特徴や臨床的あるいは免疫学的な意義はまだ十分に解明されていないのが現状です。そこで、今回私たちのグループでは肺癌におけるTMBと臨床的・免疫学的因子との関連性を明らかにし、TMBとともにバイオマーカーとなり得る因子があるかどうかについて検討しました。

 手術で摘出した肺がん組織を用いて、全エキソーム解析でTMBを算出しました。肺がんに見られる代表的な遺伝子変異の解析はパネルシーケンスや免疫組織化学染色を行い解析しました。その結果、TMBは男性や喫煙歴のある人、組織型が扁平上皮癌、腫瘍径が大きい、EGFR遺伝子変異を有さない、TP53遺伝子変異を有する症例で特に高くなる傾向が見られました。なかでもEGFR遺伝子変異がなくTP53遺伝子変異を持つことが、特にTMB高値との関連性が高いことを明らかにし初めて報告いたしました。更にこれまでバイオマーカーとして重要と考えられている、腫瘍浸潤リンパ球やPD-L1発現との関連がないことも明らかとなりました。まだ十分な実用性はありませんが、EGFRやTP53の変異の有無などからTMBを予測する式を求めることもできました。

 TMBが免疫チェックポイント阻害薬のバイオマーカーとして確立されれば、EGFRやTP53などより簡単に解析できる因子を評価することで、TMBを解析するよりも簡便かつスピーディーに効果を予測することができるようになるかもしれません。


連絡先

 公立大学法人福島県立医科大学 医学部 呼吸器外科学講座

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