福島県立医科大学 研究成果情報

英国科学誌「Scientific Reports」掲載(2019年12月オンライン)(2020-01-07)

Resveratrol inhibits IL-33-mediated mast cell activation by targeting the MK2/3-PI3K/Akt axis

レスベラトロールによるMK2/3-PI3K/Akt経路を介したIL-33誘導型マスト細胞活性化の抑制

中嶋正太郎(なかじま・しょうたろう)
医学部 プログレッシブDOHaD研究講座・消化管外科学講座 講師

河野 浩二(こうの・こうじ)
医学部 消化管外科学講座 教授

        
研究グループ
Shotaro Nakajima, Kayoko Ishimaru, Anna Kobayashi, Guannan Yu, Yuki Nakamura, Kyoko Oh-oka, Katsue Suzuki-Inoue, Koji Kono, and Atsuhito Nakao

概要

(1)背景

 インターロイキン-33(IL-33)はST2受容体を介して組織の恒常性や炎症において様々な役割を果たすサイトカインです。近年の報告により、IL-33はアレルギー疾患の進展に重要な役割を果たすことが明らかにされています。アレルゲンへの暴露により、IL-33は上皮細胞からalarminとして放出され、ST2受容体を発現する肥満細胞(マスト細胞)や2型自然リンパ球を活性化することでIL-5やIL-13の産生を促し、アレルギー炎症を誘発します。IL-33-ST2経路はIgEが関与する獲得型アレルギーだけではなく、IgE非依存的な自然型アレルギーにも関与することが知られており、マスト細胞や自然リンパ球のIL-33-ST2経路を抑制することは、広範なアレルギー疾患の予防・治療戦略に繋がると考えられます。

 レスベラトロールは、赤ぶどうなどの植物により産生される天然ポリフェノールであり、全身のあらゆる細胞に作用することでアンチエイジング作用や抗腫瘍活性などを有することが知られています。マスト細胞においては、レスベラトロールがIgEによる脱顆粒反応を抑制することでI型アレルギー反応を減弱させることが報告されていますが、IL-33-ST2経路によるマスト細胞活性化に対するレスベラトロールの影響はほとんど解明されていませんでした。

(2)研究内容

 本研究では、マウス骨髄由来マスト細胞およびヒト末梢血好塩基球を用い、レスベラトロールがIL-33によるマスト細胞および好塩基球の活性化を強く抑制することを明らかにしました。レスベラトロールはマウスの気道におけるマスト細胞の活性化を抑制することから、in vitroおよびin vivoの両方においてマスト細胞の活性化を抑制することが明らかとなりました。

 IL-33-ST2経路によるマスト細胞の活性化には、NF-κB経路あるいはMAPK p38-MK2/3-PI3K/Akt経路が関与することが報告されていることから、レスベラトロールがこれらの経路に対し抑制的に作用するか否か検討を行いました。過去にレスベラトロールがNF-κB経路を阻害することで炎症応答を抑制することが複数の研究グループにより報告されていましたが、本研究においてレスベラトロールはIL-33によるNF-κB経路の活性化を抑制することなく、MAPK p38-MK2/3-PI3K/Akt経路を特異的に阻害することが明らかとなりました。またインビトロキナーゼアッセイにより、レスベラトロールがMK2/3キナーゼの活性を直接抑制することが明らかなとなり、レスベラトロールの新たな標的因子としてMK2/3を同定しました。

 世界中でアレルギー疾患の患者数は増加傾向にあり、一度発症すると根本的治療が困難であることから、アレルギー疾患の発症を予防することが大切だと考えられます。今後は、レスベラトロールを用いたアレルギー疾患の予防を目的としたさらなる研究が期待されます。


連絡先

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