- 叶多 諒 (かのうだ・りょう)
- 消化管外科学講座 病院助手
- 河野 浩二(こうの・こうじ)
- 消化管外科学講座 教授
- 研究グループ
- 叶多 諒、中嶋 正太郎、河野 浩二
概要
論文掲載雑誌:「Scientific Reports」(September 6, 2024)
ミスマッチ修復欠損/マイクロサテライト不安定性(dMMR/ MSI-H)胃癌(GC)は、ミスマッチ修復正常/マイクロサテライト安定型(pMMR/MSS)胃癌やEpstein-Barr virus陰性(EBV(−))胃癌と比較して、免疫活性の高い腫瘍微小環境(TME)を示すと報告されています。腫瘍細胞内cGAS-STING経路は、TMEにおける免疫細胞活性化の主要な調節因子と考えられ、STINGシグナルのダウンレギュレーションが、腫瘍内の抗原提示細胞およびCD8+T細胞の浸潤や活性化の抑制と関連していることが報告されています。しかし、dMMR/MSI-H胃癌(GC)における免疫活性の高いTMEの調節メカニズムは明らかになっていません。
本研究ではdMMR胃癌とpMMR/EBV(−)胃癌の腫瘍細胞内cGAS-STINGの発現パターンやCD8+ T細胞の浸潤について比較検討を行いました。当科において手術が施行された胃癌患者401症例の免疫組織化学染色(IHC)を実施した結果、cGASとSTING発現は、pMMR/EBV(−)GCと比較してdMMR GCで有意に高いことが分かりました。cGAS-high、STING-high、およびcGAS/STING-high GCの頻度は、dMMR GCでpMMR/EBV(−)GCと比較して高いことが示され、これにより、dMMR GCで腫瘍細胞内cGAS–STINGの発現が上昇していることが示唆されました。次にCD8+腫瘍浸潤リンパ球(TILs)の数をIHC分析で評価したところ、dMMR胃癌におけるCD8+ TILsの数がpMMR/EBV(−)胃癌と比較して有意に高く、さらに腫瘍細胞内STINGの発現とCD8+ TILsの数との間には正の相関がありました。またTCGAデータセットの解析により、インターフェロン刺激遺伝子およびSTING下流のT細胞を引き寄せるケモカインの発現がMSI-H胃癌で有意に高いことが示されました。
これらの結果は、腫瘍細胞内STINGシグナルがdMMR/MSI-H胃癌のTMEにおける免疫細胞の活性化に重要な役割を果たし、免疫療法の効果を予測する新しいバイオマーカーとして機能する可能性があることを示唆しています。(叶多 諒)
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