福島県立医科大学 研究成果情報

米国科学誌「Clinical Cancer Research」掲載(平成30年5月オンライン)(2018-06-26)

Glycosyltransferase gene expression identifies a poor prognostic colorectal cancer subtype associated with mismatch repair deficiency and incomplete glycan synthesis

糖鎖遺伝子発現プロファイルによる大腸がんサブタイプの発見

野田 勝(のだ・まさる)
医学部 乳腺外科学講座 助教
岡山 洋和(おかやま・ひろかず)
医学部 消化管外科学講座 助教
河野 浩二(こうの・こうじ)
医学部 消化管外科学講座 教授
        
研究グループ
Masaru Noda, Hirokazu Okayama, Kazunoshin Tachibana, Wataru Sakamoto, Katsuharu Saito, Aung Kyi Thar Min, Mai Ashizawa, Takahiro Nakajima, Keita Aoto, Tomoyuki Momma, Kyoko Katakura, Shinji Ohki, and Koji Kono

概要

論文掲載雑誌:「Clinical Cancer Research」(May 29, 2018)


(1)背景

 糖鎖とは、グルコースやガラクトース、フコースなどの糖が鎖状につながった生体分子で、核酸(DNA・RNA)、タンパク質に次ぐ「第三の生命鎖」とも呼ばれています。糖鎖はタンパク質や脂質に結合する形で細胞表面に無数のアンテナのように存在しており、細胞間の情報伝達などに極めて重要な役割を果たしています。核酸やタンパク質が直鎖状であるのに対し、糖鎖構造は複雑に連結・枝分かれし極めて多様性に富むためその解析は容易ではなく、核酸やタンパク質研究の進歩に比較すると、その機能や制御機構の理解は十分とは言えません。

 がんの分野では古くから糖鎖の重要性が認識されていました。がん化に伴い、細胞表面の糖鎖発現が変化することで浸潤や転移が起こりやすくなる一方、がんに特徴的な糖鎖構造はがん細胞の目印ともなります。例えばCA19-9など、現在実用化されている腫瘍マーカーの多くは糖鎖構造の一部に由来するものです。

 

(2)研究内容

 当研究グループでは、本学消化管外科学講座独自のテーマとして、大腸がんにおける糖鎖に着目した個別化医療の実現を目指し研究に取り組んで来ました。本研究では、糖鎖構造そのものへのアプローチではなく、糖鎖の生合成に関与する多数の糖転移酵素遺伝子群の網羅的解析を出発点にしています。総計4600例を超える大腸がん、大腸腺腫、大腸粘膜サンプルの大規模なゲノム・メチル化・遺伝子発現データを解析し、さらに免疫染色を用いたタンパク質発現解析、培養細胞を用いた遺伝子機能解析、レクチンアレイ等に応用することで、世界で初めての糖鎖遺伝子に由来する大腸がん分子サブタイプを発見しました。

 本研究で発見したサブタイプは、高頻度にDNAミスマッチ修復機構の欠損を示すとともに、糖転移酵素GALNT6遺伝子発現低下およびGALNT6タンパク質発現消失が特徴的です。GALNT6タンパク質は、腺腫などの前がん病変や極めて早期の粘膜内がんではほぼ全例で高発現していますが、粘膜下層より深くに浸潤した大腸がんでは約15%の症例で発現が消失しています。DNAメチル化という遺伝子発現抑制機構がこれに関連しているようです。GALNT6が発現しない約15%の大腸がんは、死亡率が高く、抗がん剤が効きにくく再発率も高い傾向があり、特にステージIIIの大腸がんでその傾向が顕著です。大腸がん培養細胞でGALNT6を低下させると、がん細胞が浸潤しやすく、抗がん剤が効きにくくなるとともに、がん細胞表面においてがん関連Tn抗原と呼ばれる短縮型の糖鎖構造の発現が亢進します。

 この新規の大腸がんサブタイプは15種類の糖転移酵素遺伝子発現プロファイルから同定されましたが、免疫染色という手法によりGALNT6発現を調べることで比較的容易に検出することができます。既存の臨床情報にGALNT6染色によるサブタイプを組み合わせることで、より適切な診療方針の選択に役立つ可能性があります。将来的には、特にステージIIIに分類される大腸がん患者さんに対して、個々のがんの特徴に応じて診療を個別化するためのバイオマーカーとしての臨床応用が期待されます。

(岡山 洋和)


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