- 小幡 英章 (おばた・ひであき)
- 附属病院 痛み緩和医療センター 教授
- 研究グループ
- 伊東幸日子、須藤貴史、齋藤 繁、小幡英章
概要
論文掲載雑誌:「Anesthesia & Analgesia」126(1):298-307(2018 Jan.)
抗うつ薬の一部は慢性痛の治療に用いられている。セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(serotonin noradrenalin reuptake inhibitor: SNRI)の一つであるデュロキセチンは、本邦においても様々な慢性痛に保険適応となっており、慢性痛治療薬としての重要性が増している。SNRIの慢性痛抑制作用は、抗うつ作用とは別の機序によるものと考えられているが、その詳しい機序は解明されていない。本研究ではデュロキセチンの慢性痛抑制機序に関して以下の新知見を得た。
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- ラット神経障害性疼痛モデルの一つであるSpinal nerve ligation (SNL)を作成すると早期から下肢に痛覚過敏を生じる。これとは別にSNLを作成してから6週間以上経過すると(SNL6W)、内因性鎮痛機能が減弱する。これには青斑核から脊髄後角に投射するノルアドレナリン作動性下行性抑制系の機能不全が関与していた。
- デュロキセチンをSNL6Wに3日間連投すると(10 mg/kg/day皮下投与)、下肢の痛覚過敏を抑制するだけでなく、減弱した内因性鎮痛機能も改善した
- これらのデュロキセチンの効果は、髄腔内にα2アドレナリン受容体拮抗薬を投与すると、すべてリバースされた。
- デュロキセチン連投後の腰部脊髄後角では、ノルアドレナリンの含量が増加していた。
以上から、デュロキセチンの慢性痛への抑制効果は、脊髄後角で増加したノルアドレナリンが、α2アドレナリン受容体を介して、痛覚過敏を抑制したり減弱した内因性鎮痛を増強したりすることによると考えられる。これらの作用は脊髄での作用が主体であり、SNRIが持つ抗うつ作用とは関係がないことが示された。
(小幡 英章)
連絡先
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