福島県立医科大学 研究成果情報

欧州神経科学誌「European Journal of Neurosciencen」 掲載 〔平成29年12月〕(2017-12-02)

Task-dependent function of striatal cholinergic interneurons in behavioural flexibility.

行動柔軟性における線条体コリン作動性介在ニューロンの役割は行動課題により依存する

小林 和人(こばやし・かずと)
医学部附属生体情報伝達研究所  生体機能研究部門 教授
瀬戸川 将(せとがわ・すすむ)
医学部附属生体情報伝達研究所  生体機能研究部門 特任助教
西澤 佳代(にしざわ・かよ)
医学部附属生体情報伝達研究所  生体機能研究部門 助教
        
研究グループ
岡田佳奈、西澤佳代、瀬戸川 将、橋本浩一、小林和人

概要

論文掲載雑誌:「European Journal of Neurosciencen」 (2017) doi: 10.1111/ejn.13768.

 

行動の柔軟性を制御する線条体コリン作動性介在ニューロンのマルチな役割~ 本学生体機能研究部門と広島大学大学院医歯薬保健学研究科神経生理学の共同研究が、平成29年12月2日に欧州神経科学誌「European Journal of Neuroscience」に掲載されました。

【研究成果】
短期間に集中して学習した場合、線条体の背内側部のコリン作動性介在神経ニューロンが反応弁別逆転学習における行動の柔軟性を促進する。
学習課題ごとの間隔が長く長時間かけて学習した場合、背内側部のコリン作動性介在ニューロンが場所弁別および反応弁別逆転学習における行動の柔軟性を抑制する。
異なる学習課題の間隔や弁別行動のタイプにおいて、背内側部のコリン作動性介在ニューロンが行動の柔軟性を促進、あるいは抑制と双方向的に制御することを明らかにした。

【研究概要】 行動の柔軟性とは、既に学習した特定の行動を、環境や状況の変化に合わせて変化させる能力のことで、ヒトや動物が生きていく上で不可欠な能力です。高次認知機能に関わる前頭前野や線条体は、多くの動物実験による研究の他、パーキンソン病やハンチントン病などを対象とした臨床研究の結果から、行動の柔軟性において重要な脳領域であることが報告されてきました。中でも、線条体に存在するコリン作動性介在ニューロンは、条件づけられた学習手掛りに対して特徴的な応答を示すことから、行動柔軟性について中心的な役割を果たしていると考えられています。しかしながら、異なる学習課題や学習方法における線条体のコリン作動性介在ニューロンの役割は分かっていません。そこで我々の研究では、コリン作動性介在ニューロンを当研究室で開発したイムノトキシン細胞標的法により選択的に破壊する事で、行動の柔軟性にどのような役割を果たしているのかを検討しました。

私たちの実験では、T字型をした迷路の中の2つの選択肢から特定の場所に移動すると餌が貰える課題(場所弁別課題)と左右の特定の方向へ反応すると餌が貰える課題(反応弁別課題)を学習した後に、正解の選択肢を逆転する行動課題(逆転学習課題)を用いました。そのため、この課題では事前に学習した行動を、ルールの変化に合わせて柔軟に変化させる必要があります。また、課題の試行毎の間隔を“短い”場合と“長い”場合に設定し、短期間で集中して学習する場合と時間をかけてゆっくり学習する場合にコリン作動性介在ニューロンが行動柔軟性にどのように関与するか検討しました。 その結果、ラットにおける線条体背内側部のコリン作動性介在ニューロンが、行動課題の間隔が短く集中して学習する場合には、反応弁別課題のルール変更時において行動の柔軟性を促進する役割を持つのに対し、課題の間隔長く長い時間をかけて学習する場合には場所弁別課題や反応弁別課題のルールの変更における行動の柔軟性を低下させる役割をもつことがわかりました。この結果により、線条体の背内側部におけるコリン作動性介在ニューロンが学習条件の違いによって、異なる役割を担っていることが示されました。これは、行動の柔軟性の制御に関する脳内の神経基盤を明らかにする上で、重要な手掛りとなります。

(瀬戸川 将)


連絡先

公立大学法人福島県立医科大学 医学部附属生体情報伝達研究所 生体機能研究部門 教授 小林和人
電話 024-547-1667 / FAX 024-548-3936
講座ホームページ https://www.fmu.ac.jp/home/molgenet/
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