福島県立医科大学 研究成果情報

第19回 日本異種移植研究会 優秀賞 〔平成29年 2月受賞〕(2017-02-25)

Mitomycin-Cを用いた移植前処置による膵島グラフトの免疫原性低下の誘導

佐藤 直哉 (さとう・なおや)
医学部 肝胆膵・移植外科学講座 助教
        
研究グループ
佐藤直哉、穴澤貴行、小船戸康秀、石亀輝英、岡田 良、木村 隆、見城 明、丸橋 繁

今回の受賞について

【 日本異種移植研究会 】
ヒトからヒトへの臓器・組織の移植(同種移植)が定着し、移植待機患者が増加する一方で、慢性的に臓器・組織の提供(ドナー)数が少ない点が問題となっております。人間ではない他の種の動物(ブタなど)からヒトへの臓器・組織の移植(異種移植)の研究は古くから行われ、欧米を中心として臨床の実施も報告されています。ドナー不足を背景として高まる移植臓器のニーズに応えるため、異種移植という新しい技術の開発は注目され盛んになっており、同種移植のドナー不足問題解決の一助として期待されております。
【 優秀賞 】
今回開催された第19回日本異種移植研究会で発表された演題のうち、優秀演題5題を「日本異種移植研究会優秀賞」として表彰されたものです。

概要

この研究は、1型糖尿病の移植医療として臨床応用が進んでいる膵島移植に関するものです。 研究概要の説明の前に、膵島移植とその現状についてお伝えいたします。膵島移植は、血糖コントロール困難な1型糖尿病患者を対象として、ドナーより提供された膵臓より膵島組織のみを分離し移植する方法で、膵臓移植と比較して極めて低侵襲であるという優位性があります。2013年10月には本邦で初となる脳死ドナーより提供された膵島を用いた膵島移植が京都大学で実施され、着実に実施回数を伸ばしております。 しかし、移植医療全般において患者需要に対する脳死ドナー提供数は極めて少なく、特に我が国においては顕著であり、ドナー不足が大きな課題となっております。これらの課題に対し、膵島移植においても再生医療的アプローチで再生膵島を作成する方法やヒトの代わりに異種動物由来の膵島を活用する異種移植が注目され、絶対的な移植膵島グラフト不足の解消に期待が寄せられております。 これらを背景として、本研究の概要についてお伝えいたします。本研究では、ラット膵島を糖尿病マウスに移植する異種移植モデルにおいて、Mitomycin-C(MMC)を用いた移植前処置が著名な生着延長をもたらす現象について、そのメカニズムに迫りました。 移植膵島での網羅的遺伝子発現解析を行い、統計学的に有意に変化した遺伝子群の同定と、得られた解析結果について検証実験を行いました。遺伝子解析の結果では、移植膵島内でのサイトカイン関連遺伝子群発現がMMCにより抑制されていることが注目されました。そこで、膵島培養液中のタンパク発現を測定すると、遺伝子発現が著名に抑制されたサイトカイン(IL-6、MCP-3、MMP-2)は、タンパクレベルでも発現抑制が確認されました。さらにラット膵島の培養液に対する、マウス単球の遊走能はMMC処置により有意に抑制され、膵島グラフトが分泌するサイトカインを抑制することで免疫原性が低下していることが明らかになりました。また移植部位での免疫細胞集簇を評価すると、MMC膵島で免疫応答が抑制されていることが明らかとなりました。 これらの知見から、異種移植において宿主免疫応答を抑制する戦略としてMMCを用いた前処置が有望である可能性があると結論付けられ、今後大動物を用いた移植実験においてこれらの効果を検証することが求められます。

(佐藤 直哉)


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