福島県立医科大学 研究成果情報

平成26年度 日本透析医学会賞(木本賞) 〔平成26年6月受賞〕(2014-06-14)

「血液透析患者における新規生命予後マーカーとしての  血清PEDF(pigment epithelium-derived factor)」

寺脇 博之 (てらわき・ひろゆき)
福島県立医科大学附属病院 人工透析センター 特命准教授
        
研究グループ
寺脇博之、中山昌明(福島医大)、山岸昌一(久留米大)、船越陽一(船越クリニック)、松山幸恵、寺田知新、惠良聖一(岐阜大)、小倉誠、細谷龍男(慈恵医大)、中山恵輔、伊藤貞嘉(東北大)

今回の受賞について

日本透析医学会賞は、一般社団法人 日本透析医学会が年1回授与する賞で、国内外の医学誌に掲載された透析医学に関する優秀な基礎的ならびに臨床的研究の原著論文に対し与えられます。年間3本以内が受賞対象となり、そのうち特に優れた論文が学会賞(木本賞)、それ以外が奨励賞とされます。今回の受賞は、最高評価の「木本賞」として与えられました。
なお日本透析医学会は、年次学術集会に約15,000人が参加する、国内を代表する大規模学会の1つです。

概要

受賞対象となった臨床研究は、74名の維持血液透析患者において、血中のPEDF=pigment epithelium-derived factor濃度と患者予後との関連を検討した前向き観察研究です。

PEDFは日本語で「色素上皮由来因子」を意味し、最初は網膜色素上皮細胞から生成分離された蛋白です。しかし、その後の研究により、現在では血管・炎症細胞・脂肪組織・肝細胞など、全身の組織で産生・分泌されることが確認されています。

過去の検討によると、基礎実験ではPEDFには高い抗酸化能および抗炎症作用が確認され、アドリアマイシン投与モデルにおいて腎障害を軽減するなど生体に有益な作用を及ぼすことが期待されております。ところがその一方で、実臨床の検体では肥満・脂質異常症・インスリン抵抗性・慢性炎症それに腎障害が存在する場合に高値であることが確認されており、PEDFが高値あるいは低値である事の生理的意義は全く不明でありました。さらに過去の検討で、血液透析患者の血清PEDF濃度は一般人より高値であることが確認されていたものの、PEDFの透析性の有無、さらに予後への影響につきましては、わかっておりませんでした。そこで私たちは、血液透析患者において血清PEDFが透析前後でどのように変化するのか、そして血清PEDFが高値あるいは低値であることが予後に何らかの影響を及ぼすのか否かについて、検討を行いました。

血液透析患者の血清PEDF濃度は健常人の約3倍で、透析の前後でPEDF濃度に有意差は見られず、PEDFは血液透析によって除去されない状況が確認されました。最長67か月におよぶ観察期間(45.4±25.1か月)の間に、74名のうち30名がイベント(死亡ないし心血管疾患)を発症しましたが、PEDFが低値であるほどイベント発症のリスクが高く、透析前PEDFが平均以下である患者の死亡リスクは、平均以上の場合と比較して約6倍(交絡因子で補正済み)であることが示されました。

上記の検討結果より、透析患者において血清PEDFが高値であるのは、腎機能低下に伴う蓄積ではなく、おそらく腎不全に起因する高い酸化ストレス状況ないし慢性炎症に対応するための生体側の防御反応であり、それが不十分である場合に生命予後が不良となる可能性が想定されました。

本研究の結論として、血清PEDFの低値は透析患者の生命予後不良に関する新たな危険因子であり、今後PEDFを指標あるいは治療ターゲットとした研究の展開が期待されると考えられました。

【今後の展開】
私たちの研究グループは酸化ストレス低減を目的とした「電解水透析システム」を開発し、現在実臨床での効果を検討中です。今後、この電解水透析システムが血清PEDF濃度に及ぼす影響を評価する臨床研究が計画されています(本学倫理委員会承認済み)。

(寺脇 博之)


関連サイト

連絡先

公立大学法人福島県立医科大学附属病院 人工透析センター
電話 024-547-2106 / FAX 024-548-3044
センター紹介ページ(附属病院HP) http://www.fmu.ac.jp/byoin/new/sosiki/jinkou.html
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