福島県立医科大学 研究成果情報

英国雑誌「Thorax」 掲載  〔平成26年7月〕(2014-07-17)

Sputum-to-serum hydrogen sulfide ratio in COPD

COPD(慢性閉塞性肺疾患)における喀痰/血清硫化水素濃度比の有用性

斎藤 純平 (さいとう・じゅんぺい)
呼吸器内科学講座 講師
        

概要

論文掲載雑誌: Thorax 2014 Jul 17. Epub ahead of print.

硫化水素(H2S)は温泉や排気ガス中に含まれている成分で、卵の腐った臭いが特有の有毒ガスとして知られています。しかし、近年、生体内でも微量ながら産生されることがわかってきました。肺での主な産生源は気道平滑筋と考えられていますが、その役割についてはよくわかっていません。 そこで、本研究では、健常非喫煙者、健常喫煙者、安定した慢性閉塞性肺疾患(安定COPD)患者、増悪を起こしたCOPD患者(増悪COPD)に対して喀痰および血液中のH2S濃度を測定し、COPDの管理指標として利用可能かどうか検討しました。結果として、喀痰中H2S濃度は、増悪COPD患者および安定COPDの方が健常喫煙・非喫煙者よりも有意に高値を示していました。一方、血清H2S濃度は、安定COPD患者では健常喫煙者・非喫煙者と比べて有意に高値を示していましたが、増悪COPD患者は安定COPD患者と比べて有意に低値を示しており、健常者のレベルと同程度でした。このように、H2Sは喀痰と血清で相反する変化を示したことから、同一患者において増悪期と安定期における喀痰・血清H2S濃度を比較したところ、増悪期のH2S濃度は安定期に比べて喀痰では上昇し、血清では低下することがわかりました。即ち、喀痰/血清比で考えると、増悪期では安定期と比べて有意に喀痰/血清H2S比が上昇することがわかりました。更に、喀痰・血清H2S濃度はこれまで報告されてきたCOPD管理指標である息切れスコア(MRSスコア)、QOL指標(SGRQスコア)、酸素飽和度(SpO2)、呼吸機能検査(一秒量・一秒率)、喀痰炎症細胞(喀痰好中球)とも有意な相関関係を示すことがわかりました。以上の結果から、喀痰・血清H2S値およびその比は、COPD患者の管理のみならず増悪予測の指標としても利用できる可能性が示唆されました。

現在、COPDは日本人の死因の第9位(世界の第4位)を占めており、今後更に増加することが予想されている呼吸器疾患です。これを受けて、平成25年には厚生労働省が健康増進法に基づいた国民健康づくりプランを発表し、COPDを癌・循環器疾患・糖尿病と同等の生命に影響を及ぼす重要な生活習慣病の一つとして位置付けました。今後、H2S測定法がCOPDの新たな管理指標の一つとして広く日常診療で利用され、生命予後の改善に寄与することを期待します。

連絡先

公立大学法人福島県立医科大学 医学部 呼吸器内科学講座
電話 024-547-1360 / FAX 024-548-9366
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