- 代表 : 高橋 実 (タカハシ ミノル)
- 福島県立医科大学 医学部 免疫学講座 助教
公立大学法人福島県立医科大学医学部 免疫学講座 (教授・藤田禎三) の高橋実助教らの研究チームは、自然免疫システムの領域で血中に存在する補体活性化酵素「MASP-1」 の新たな機能の解明に成功しました。
MASPとは、当講座によって発見され、血清レクチンであるマンノース結合レクチン(MBL) やフィコリンに結合して補体を活性化する重要な酵素です。この補体活性化経路をレクチン経路と呼び、自然免疫に関与しています。
MASPには、MASP-1の他にMASP-2とMASP-3があり、MASP-2が補体レクチン経路の主たる活性化酵素であるとされていますが、MASP-1/-3の生体での機能についてはほとんどわかっていませんでした。
今回、高橋らはMASP-1/-3を欠損したマウスを用いた解析により、MASP-1が第二経路の活性化酵素であるD因子の前駆体を活性型に転換する酵素であることを発見しました。
この成果は免疫学の領域に新概念を提唱するものであり、米国の実験医学雑誌 (The Journal of Experimental Medicine) の2009年12月28日発表の 電子版 に掲載されました。冊子版は1月号にて掲載される予定です。
なお、本研究は 本学附属生体情報伝達研究所 生体物質研究部門 との共同研究として行われたものです。
自然免疫システムは、T細胞やB細胞の担当する獲得免疫に先だって発動される初期生体防御システムです。
補体もその重要な要素で、病原体が侵入すると古典経路、第二経路、レクチン経路の3つの異なるカスケードで補体第3成分(C3) を活性化します。C3以降はC5~C9が働く共通の反応で、結果として病原体の細胞膜に穴を開け、またマクロファージなどの貪食を促進することで生体防御に働きます。補体成分は複数のタンパク分解酵素を含み、不活性な酵素前駆体の形で血中に分泌されますが、D因子は例外的に脂肪組織で活性化を受け分泌されると考えられてきました。
今回の研究はMASP-1/-3がないマウスにおいて第二経路の活性化が起こらず、その原因としてD因子がN末端側に5つのアミノ酸を付加した前駆体のまま循環していることを証明しました。さらにMASP-1がその5つのアミノ酸を切り離し、D因子を活性型にすることもわかりました。
高橋らのグループは既にMASP-1はMASP-2の活性化を促進し、レクチン経路の即時的な反応に必要であることを見出しており、1分子が2つの補体カスケードに働く要の酵素であることを見出した本研究の意義は大きいものと考えられます。
特に補体は生体防御において重要である一方、様々な自己免疫疾患にも関与していることが知られています。MASP-1はそのような疾患を治療する上で、新たな標的分子として期待できます。
【掲載論文名 および 掲載雑誌】
“Essential role of Mannose-binding lectin-assocaited serine protease-1 in activation of the complement factor D”
(MASP-1は補体D因子を活性化する必須の因子である)
「The Journal of Experimental Medicine」 (実験医学雑誌) ホームページ (英文)
● 電子版は こちら (要約ページ)
連絡先
高橋 実 (タカハシ ミノル)
福島県立医科大学医学部 免疫学講座 助教
〒960-1295 福島市光が丘1番地 研究室電話: 024-547-1148 (FAX 024-548-6760 )
E-mail : minolta@fmu.ac.jp
● 免疫学講座のご紹介 http://www.fmu.ac.jp/cms/immunol/index_html
研究者データベース(高橋実) http://www.fmu.ac.jp/kenkyu/Profiles/4/0000367/profile.html