福島県立医科大学 研究成果情報

英国科学誌「Scientific Reports」掲載(令和3年11月9日)(2021-11-19)

Prevalence of non-communicable diseases among healthy male decontamination workers after the Fukushima nuclear disaster in Japan: an observational study

福島原子力発電所事故後の一般男性除染作業員における生活習慣病の有病率:観察研究

澤野 豊明 (さわの・とよあき)
医学部 放射線健康管理学講座 大学院生(博士課程)/ときわ会常磐病院外科
        
研究グループ
澤野豊明、坪倉正治

概要

論文掲載雑誌「Scientific Reports」(令和3年11月9日)


 労働衛生および労働安全の領域において現在、弱者の健康を管理し維持・保護することは公衆衛生医学上の重要な課題である。福島第一原子力発電所事故後には、事故によって放出された放射能の影響を軽減するため、除染作業が実施された。除染作業員には、県外から流入したいわゆる多くの出稼ぎ労働者がその作業に従事した事が知られている。以前の我々の研究では、入院した除染作業員の生活習慣病の有病率、およびその未治療の割合が高いことが示されている。その一方で、そういった社会的に弱い背景をもつ除染作業員の健康状態については、いまだ十分な評価がされていない状況にあった。本研究では、入院した状態ではない、一般の除染作業員における生活習慣病の有病率を評価することを目的とした。
 方法は以下の通りである。本観察研究では,2016年に福島県南相馬市で除染作業員を対象とした健康増進プログラムの一環として,生活習慣や社会的要因に関する質問票を実施した。質問票および健康診断から抽出した高血圧、脂質異常症、糖尿病ならびに肥満の有病率を、2016年に実施された国民健康栄養調査を1985年モデルで年齢調整を行なった結果と比較した。
 本研究には、合計123名の男性除染作業員が登録され、93名(75.6%)が飲酒者で、84名(68.3%)が現喫煙者であった。高血圧、脂質異常症、糖尿病、肥満の年齢調整後の有病率(95%信頼区間)は、それぞれ27.2%(20.1-34.4%)、30.4%(22.6-38.2%)、11.3%(5.5-17.1%)、49.0%(39.0-58.9%)であった。2016年の国民健康栄養調査における年齢調整後の有病率は、それぞれ32.8%(31.1~34.5%)、16.1%(14.5~17.6%)、7.0%(6.2~7.7%)、31.2%(29.9~32.5%)であった。脂質異常症と肥満の有病率は、除染作業員の方が一般の方よりも有意に高かった。
 結論としては 一般の非入院の男性除染作業員では、肥満、脂質異常症、飲酒、喫煙の有病率が一般の人に比べて高かった。本研究は介入研究ではないため、除染作業員が被災地に流入したことに関連して健康状態を悪化させたかどうかを評価することはできないが、一般的に除染作業員は、元々の健康状態に起因して、生活習慣病の有病率が高い可能性がある。除染作業員の健康状態を継続的にモニタリングし、適切な介入を行うことが望まれる。


連絡先

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