福島県立医科大学 研究成果情報

早期非小細胞性肺癌におけるマイクロRNAの発現と予後・進展との関連について:独立した3群における後ろ向き研究(2011-04-01)

論文題名 The association of microRNA expression with prognosis and progression in early-stage, non-small cell lung adenocarcinoma: a retrospective analysis of three cohorts.
早期非小細胞性肺癌におけるマイクロRNAの発現と予後・進展との関連について:独立した3群における後ろ向き研究
著  者 齋藤元伸
雑誌名 Clinical Cancer Research
発行日 2011年4月1日
巻(号)、ページ 17(7):1875-82
要   旨
マイクロRNAは細胞内に存在するわずか約20塩基ほどの長さしかないノンコーディングRNAの一種であり、その配列の相補性により特定のmRNAに作用してその翻訳を抑制する働きが知られている。そのためマイクロRNAはがん、感染症などといった様々な病態との関連性が報告されてきている。特に、がんにおいては転移や予後の予測因子としての働きのみならず、治療標的にも成りうる可能性が示唆されている。
今回我々は、マイクロアレイの結果をもとにして3つのマイクロRNA(miR-17・miR-21・miR-155)を選別し、その発現をqRT-PCR法を用いて肺癌の腫瘍部分と非腫瘍部分にて解析した。対象は、地理的にも人種的にも独立した米国・ノルウェー・日本という3つの非小細胞性肺癌群で、計317症例である。
まず、Cox回帰分析にてマイクロRNAと癌特異的死亡率・無再発生存率との相関を調べたところ、miR-17、miR-21とmiR-155が米国群にて統計学的に有意な相関を示した。一方、ノルウェーと日本群においてはmiR-21のみが予後との相関を示した。次に、Kaplan-Meier法を用いてさらにマイクロRNAと予後との相関を調べたところ、miR-21のみが3つのすべての群で腫瘍のTNM分類とは独立して予後との相関を示した。また、miR-21の発現は非腫瘍部分と比べて腫瘍部分で高く、さらに腫瘍のステージの進行と共にその発現は増加していた。これらの結果からmiR-21は発癌性マイクロRNAとして矛盾ないことが明らかとなった。TNMステージIの肺癌群に限った場合でも、miR-21の高発現と予後の低下は有意に相関していた。
3つの独立した群において再現性のある結果が得られたことより、miR-21は非小細胞性肺癌、主に早期肺腺癌患者にとって有用な予後・診断のバイオマーカーとなる可能性が示唆された。