ヒトの歩行はスゴイ!
これまで、患者さんや健康な人を対象として、歩行などの動作中の重心移動について研究してきました。重心は目で見ることができませんので、身体に40個くらいのマーカーを張り付けて、複数のカメラで追い、その位置情報から重心位置を計算する、または、床反力計という3方向の力を測定する機器を用いて計測します。
人間の重心は、両足で立っている時には骨盤の上方部分(へその高さより少し下)にありますが、しゃがんだり座ったりした時には、身体の外に飛び出すこともあります。
研究を通していつも感じるのは、ヒトの歩行はすごい!ということです。
通常の真っ直ぐな歩行では、それぞれの脚を交互に1m以上振り出しながら前進するにもかかわらず、重心の上下の動きも左右への動きもたったの3~5cmしか動いていません。身長のわずか2~3%という驚きの数字です。
また、身体を前進させるための最も大きな力源は重力です。ヒトは一定の速度で歩いている時でも実は速く動いたりゆっくり動いたりしています。振り子運動と同じで、重心の位置が高くなると動きが遅くなり、重心の位置が下がると速くなります。こうすることで、重心の上下移動を前方への推進力に利用しているのです。この重力の利用で、通常の快適な歩行では、前進運動に必要な仕事量の半分以上を稼いでいます。これにより、歩行に必要な筋肉の活動を最小限に抑え、疲れないようにしているのです。
その他にも、多くの機能を備えていますが、わかっていないことも多くあります。
皆さんも、理学療法学科に来られて、ヒトの動作のすごさ、巧みさを味わっていただくとともに、わからないことを解明していっていただければと思います。
