- 深井 智司 (ふかい・さとし)
- 医学部 消化管外科学講座 助手
- 中嶋 正太郎(なかじま・しょうたろう)
- 消化管外科学講座 准教授
- 河野 浩二(こうの・こうじ)
- 消化管外科学講座 主任教授
- 研究グループ
- 深井智司、中嶋正太郎、齋藤元伸、齋藤勝治、加瀬晃志、仲野宏、佐藤孝洋、佐久間芽衣、金田晃尚、岡山洋和、三村耕作、坂本渉、佐瀬善一郎、門馬智之、河野浩二
概要
論文掲載雑誌:「Gastric Cancer」(令和5年8月5日オンライン)
cyclic GMP-AMP synthase (cGAS)-stimulator of interferon genes (STING)経路は細胞内に侵入した外来DNAを感知しⅠ型インターフェロン応答を誘導する細胞内シグナルとして知られていますが、近年腫瘍細胞内cGAS-STING経路が腫瘍微小環境における免疫細胞の活性化にも関与することが報告されています。興味深いことに腫瘍細胞のHER2シグナルが自身のcGAS-STING経路(主にSTING)の活性化を阻害することで抗腫瘍免疫応答を抑制することが報告されていますが、胃癌においてHER2シグナルが腫瘍細胞内cGAS-STING経路に及ぼす影響については明らかにされていませんでした。
胃癌のHER2発現は不均一性(heterogeneity)が高いことが知られており、50~75.4%程度のHER2陽性胃癌においてheterogeneityが観察されるとの報告がなされています。そこで本研究ではHER2 heterogeneityを呈するHER2陽性胃癌のHER2陽性領域とHER2陰性領域に着目し、HER2シグナルがcGAS-STING経路及び抗腫瘍免疫応答に及ぼす影響について解析しました。
当科において手術が施行されたHER2陽性胃癌患者40症例のうち30症例(75%)でHER2 heterogeneityが認められました。そこでHER2 heterogeneityを呈する30症例を対象にHER2陽性領域とHER2陰性領域におけるCD8+T細胞浸潤数を比較したところ、HER2陽性領域ではHER2陰性領域と比較しCD8+T細胞数が有意に減少していることが明らかとなりました。またHER2陽性領域ではHER2陰性領域と比較し、腫瘍細胞内STING発現が有意に低下していることも明らかとなりました。HER2 heterogeneityを呈するHER2陽性胃癌においてCD8+T細胞数と腫瘍細胞内STING発現レベルに正の相関が見られたことから、HER2シグナルがSTING発現を抑制することでCD8+T細胞浸潤レベルを低下させる可能性が示唆されました。さらにHER2陽性胃癌細胞株を用いてHER2シグナル阻害剤によりHER2シグナル、特にHER2-Aktシグナルを抑制することで、STING発現やその下流の遺伝子(IFNB1、CXCL9/10/11、CCL5など)発現が増加することも明らかとなりました。
本研究において我々はHER2 heterogeneityに着目することでHER2陽性胃癌においてHER2シグナルが腫瘍細胞内STING経路を阻害することによりCD8+T細胞浸潤を抑制する可能性を見出しました。今後我々の研究がHER2陽性胃癌においてHER2-Akt/STING経路を標的とした新規治療戦略の開発に繋がるものと期待しています。
(深井智司)
連絡先
公立大学法人福島県立医科大学 医学部 消化管外科学講座
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講座ホームページ:http://www.gi-t-surg.com/
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