福島県立医科大学 研究成果情報

第9回日本心筋症研究会「Young Investigator’s Award 臨床研究」最優秀賞(令和5年5月受賞)(2023-06-30)

拡張型心筋症における好中球細胞外トラップ (NETs) は不良な転帰と関連する: 心筋生検検体を用いたアプローチ

市村 祥平 (いちむら・しょうへい)
循環器内科学講座 助手
        
研究グループ
市村祥平、三阪智史、小河原崚、冨田湧介、三浦俊輔、横川哲朗、佐藤崇匡、及川雅啓、小林淳、義久精臣、竹石恭知

今回の受賞について

学会について


 日本心筋症研究会は、日本心不全学会の分科会として2015年に発足し、心筋症の発症機序や診断・治療に関する基礎研究・臨床研究を発表する場として発展してきた。心筋症の概念、病因や診断方法、治療の進歩や問題点を多くの角度から自由に議論し、今後の我が国の心筋症研究および診療の発展に寄与することを目的としている。

賞について


 40歳未満の日本心不全学会の会員を対象に、YIA選考委員会により選出される。学術集会へのYIA応募演題の中から、演題抄録を対象とした一次審査と口述発表による最終審査により選考される。

概要

 拡張型心筋症(DCM)や心不全では、炎症はその病態で重要な役割を果たす。無菌性炎症の誘導因子として好中球細胞外トラップ (NETs) が近年注目されているが、DCMにおける意義は未解明である。そこで我々は、心筋組織に存在するNETsが心不全においてどのような役割を果たしているかを明らかにすることを目的とした。心内膜下心筋生検を施行したDCM患者連続62例を対象とし、心筋生検検体の蛍光免疫染色にて、シトルリン化ヒストンH3+、好中球エラスターゼ+、DAPI+をNETsとして同定した。DCM患者における心筋組織単位面積あたりのNETsの数および好中球に対するNETsの割合は、心不全を有さない対照群と比較して有意に多かった。また、心筋組織におけるNETsの数は、左室駆出率(LVEF)と負の相関を認めた。NETsを有するDCM患者(n = 32)はNETsを有さないDCM患者(n = 30)と比較して、LVEFは低値で、BNPは高値であった。観察期間中央値768日の予後に関する検討では、心筋組織のNETsの存在は、心臓死、心不全増悪、LVAD植込みを含む心臓イベントのリスクと関連していた。続いて、マウス大動脈縮窄による圧負荷心不全モデルを用いて、心筋組織におけるNETsの動的変化を同様に蛍光免疫染色で定量解析した。心不全マウスでは、心筋組織のNETsは圧負荷急性期に最も多く誘導され、心不全慢性期においても持続的に認めた。最後に、NETs形成に必須であるペプチジルアルギニンデイミナーゼ4(PAD4)のノックアウトマウスおよび野生型マウスの好中球由来のコンディショニング培地を用いて、単離心筋細胞のミトコンドリア機能の解析を行った。野生型マウス好中球由来のコンディショニング培地では、単離心筋細胞のミトコンドリア酸素消費速度の低下が認められたが、PAD4欠損マウス好中球由来のコンディショニング培地では、ミトコンドリア酸素消費速度は保持されており、ミトコンドリア機能障害が抑制されていることが示唆された。以上のことから、心筋組織のNETsは、心筋細胞のミトコンドリア機能障害を介して心機能障害に関与し、DCM患者の不良な転帰に関連する可能性がある。


関連サイト

連絡先

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