福島県立医科大学 研究成果情報

独国科学誌「Cancer Immunology, Immunotherapy」掲載(令和5年3月オンライン)(2023-05-25)

大腸癌腫瘍微小環境におけるM2腫瘍関連マクロファージのHO-1を介した酸化ストレスへの抵抗性について

M2 tumor-associated macrophages resist to oxidative stress through heme oxygenase-1 in the colorectal cancer tumor microenvironment

伊藤 美郷 (いとう・みさと)
消化管外科学講座 病院助手
三村 耕作(みむら・こうさく)
医学部 消化管外科学講座 准教授

河野 浩二(こうの・こうじ)
医学部 消化管外科学講座 主任教授

        
研究グループ
【福島県立医科大学 消化管外科学講座】伊藤美郷、三村耕作、中嶋正太郎、岡山洋和、齋藤勝治、中島隆宏、菊池智宏、小野澤寿志、藤田正太郎、坂本渉、齋藤元伸、門馬智之、佐瀬善一郎、河野浩二

概要

論文掲載雑誌:「Cancer Immunology, Immunotherapy」(令和5年3月31日)


  がん免疫療法においては、細胞傷害性T細胞(CTL)やナチュラルキラー(NK)細胞などの免疫細胞が腫瘍微小環境(TME)で有効に働く必要があります。しかし、TMEには様々な免疫抑制機構が存在し、CTLやNK細胞の働きを抑制しています。その中でも、M2タイプの腫瘍随伴マクロファージ(M2-TAM)は、がんに対する免疫を強く抑制することで、癌細胞の増殖や転移に関与しています。

 当科の先行研究にて、TMEでM2-TAMが増加していることを報告しました。しかし、その増加機序は十分に解明されていません。TMEは常に酸化ストレスにさらされていることは知られておりますが、M2-TAMは酸化ストレスに抵抗できるためにTMEで増加しているのではないかと考えました。そこで、本研究では、酸化ストレスに焦点を置いて、TMEにおけるM2-TAMの増加機序について検討しました。

 大腸癌手術検体を用いたflow cytometryと蛍光免疫染色の結果より、腫瘍部位でM2-TAMが多く存在していること、酸化ストレスに抵抗するために必要な分子であるNrf2とHO-1が共にM2-TAMに多く発現していることが明らかとなりました。さらに、細胞を用いた実験にて、M2マクロファージではNrf2とHO-1が多く発現しており酸化ストレスに抵抗性を持つこと、単球由来の細胞株(THP-1)ではNrf2を阻害することで酸化ストレスによって細胞死が誘導されることが明らかとなりました。

 本研究から、M2-TAMは酸化ストレスに抵抗性を持つことによりTMEでその数を増やしていること、Nrf2阻害剤などでM2-TAMを制御できる可能性があることが示唆されました。これらの結果は、M2-TAMを制御する治療方法の開発につながる成果であり、大腸癌における免疫療法の新たな展開が期待されます。

 

 


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