福島県立医科大学 研究成果情報

英国科学誌「International Journal of Disaster Risk Reduction」掲載(令和4年12月24日オンライン)(2023-01-23)

Mortality risk associated with nuclear disasters depends on the time during and following evacuation of hospitals near nuclear power plants: An observational and qualitative study

原子力災害の緊急病院避難に伴う死亡リスクは、原子力発電所周辺の病院からの避難に要する時間に依存する:観察および質的研究

澤野 豊明 (さわの・とよあき)
医学部 放射線健康管理学講座 博士研究員
        
研究グループ
澤野豊明、坪倉正治

概要

論文掲載雑誌:「International Journal of Disaster Risk Reduction」(令和4年12月24日オンライン)


 2011年3月11日、福島第一原発事故により、政府は最終的に福島第一原発から半径20km以内の住民に対して避難命令を発出しました。これにより入院患者、障害者、施設に入所している高齢者を含む健康が脆弱な方々(災害弱者)を含むすべての住民が避難を余儀なくされました。災害時の緊急避難が災害弱者に悪影響を及ぼす可能性が示唆されていますが、他方、屋内退避にも死亡リスクがあることが指摘されており、これらの矛盾する事実が、災害時の避難に関する意思決定をより困難にしている現実があります。本研究は、2011 年 3 月に発生した福島第一原子力発電所事故の被災病院において、緊急避難が原発直近の病院に入院していた患者の予後に及ぼす影響を検討し、今後の災害時に患者の健康リスクを軽減するための対策を提言することを目的としました。本論文は、福島第一原発から半径5km圏内の病院を対象に行われた緊急院内避難の詳細と困難さを解析した初めての学術研究論文です。

 福島第一原子力発電所から20km圏内の避難区域には7病院がありましたが、本研究ではそのうち5km圏内の3病院を調査しました。この3つの病院の緊急避難に関する情報を、過去の文献や公式報告書から統合し記述的に描写した上で避難に関連する因子と予後の記述的比較を行いました。また、各病院関係者へのインタビュー結果を主題(テーマ)分析によって質的分析を行いました。

 テーマ分析の結果、「災害に対する備えの不足」「患者避難の困難さ」「資材の不足」「情報の不足」の4つのテーマが抽出されました。福島第一原発から半径5km以内にある3つの病院を比較すると、患者数が多い病院、寝たきりや重症患者の割合が高い病院ほど緊急避難が難しく、死者数も多いことがわかりました。さらに、避難を原因とする病院入院患者の死亡は、死亡時期によって、①避難中および避難直後の超急性期、②避難後一定期間続く亜急性期、に分類することができる可能性が示唆されました。

 本研究からは今後の災害への備えとしては、個別の病院による避難計画作成だけでは不十分であり、各医療施設の状況や個別支援策を集約する手順など、外部機関や公的機関による災害対応を準備することが必要である可能性が示唆されました。また、医療機関が避難しない(屋内退避)を選択するためには、①病院インフラの維持、②医薬品、医療従事者などの外部資源の確保、③公的機関からの情報を統合するための独自のコミュニケーション手段の確保、といったものが必要であり、それらが一つでも欠けてしまうとその実現可能性は低いと考察を行いました。


連絡先

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