福島県立医科大学 研究成果情報

英国科学誌「Lancet Oncology」掲載(令和4年4月8日オンライン)(2022-06-02)

Switch maintenance endocrine therapy plus bevacizumab after bevacizumab plus paclitaxel in advanced or metastatic oestrogen receptor-positive, HER2-negative breast cancer (BOOSTER): a randomised, open-label, phase 2 trial

エストロゲン受容体陽性HER2陰性進行転移乳がんに対するベバシズマブ+パクリタキセル療法後の内分泌療法+ベバシズマブ維持療法(BOOSTER)を検証する非盲検無作為化第2相試験

佐治 重衡(さじ・しげひら)
医学部 腫瘍内科学講座 主任教授

大竹 徹(おおたけ・とおる)
医学部 乳腺外科学講座 主任教授

        
研究グループ
代表研究責任者:
佐治重衡(福島県立医科大学 腫瘍内科)、戸井雅和(京都大学 乳腺外科)
研究グループ:
大竹徹(福島県立医科大学 乳腺外科)を含め、臨床試験グループJBCRG (Japan Breast Cancer Research Group) に参加する53施設の研究者

概要

論文掲載雑誌:「Lancet Oncology」(令和4年4月8日オンライン)


 遠隔転移のある状態でみつかったIV期乳癌の患者さんや、手術後に時間が経過してから再発した乳癌患者さんでは、転移病巣をコントロールするために継続的な薬物治療が必要になります。その中では、できるだけ副作用を許与範囲におさえ、日常生活を続けていただけるようにすることが重要です。

 いわゆる抗がん剤治療(化学療法)は、患者さんにとってある程度負担となる副作用がどうしても不可避ですが、病状によっては、最初に使う薬剤として抗がん剤治療から開始する必要があります。この場合は治療が効いている限り、同じ治療を続けることが標準治療とされています。我々のおこなった臨床試験では、エストロゲン受容体(ER)陽性、HER2陰性の進行転移乳癌患者さんにおける初回化学療法として、weeklyパクリタキセル(化学療法薬)+ベバシズマブ(分子標的治療薬)による導入化学療法を4〜6サイクル行った後、内分泌療法+ベバシズマブによる毒性の低い維持療法へ切り替えることが可能かを調べました。

 この臨床試験を行うために、中外製薬から資金提供を受けました。

 2014年1月1日から2015年12月31日の間に、JBCRG (Japan Breast Cancer Research Group)に参加する国内53病院から160人の患者さんにご参加いただきました。weeklyパクリタキセル+ベバシズマブによる導入化学療法に効果のあった125人(78%)の患者さんは、内分泌療法+ベバシズマブへ変更(スイッチ)しての維持療法、またはweeklyパクリタキセル+ベバシズマブをそのまま継続する継続治療にランダムに割り付けられました。内分泌療法+ベバシズマブ維持療法を受けた患者さんのうち32人(52%)は、内分泌療法の効果がなくなった時点でweeklyパクリタキセルを再開しました。

 結果としては、内分泌療法+ベバシズマブ維持療法の患者さんはweeklyパクリタキセル+ベバシズマブを継続した患者さんに比較して、TFS(決められた治療戦略が終了するまでの期間)が明らかに延長しました(中央値16.8カ月 vs 8.9カ月; ハザード比 0.51[同 0·34 - 0·75]; p=0.0006)。患者さんが亡くなるまでの全生存期間については、ほぼ同等で明らかな差は見られませんでした。

 副作用としては、ベバシズマブの副作用であるタンパク尿や高血圧の頻度には差はありませんでしたが、パクリタキセルの代表的な副作用である、末梢神経障害(手や足のしびれ)は内分泌療法+ベバシズマブ維持療法の患者さんで少なくなりました。QOL(生活の質)調査では、内分泌療法+ベバシズマブ維持療法を受けた期間での患者さんのQOLは改善していました。

 これらのことから、治療効果の高い化学療法の1つであるweeklyパクリタキセル+ベバシズマブを4〜6サイクルおこない、一定の効果が得られた患者さんであれば、パクリタキセルを副作用の比較的少ない内分泌療法薬へ切り替え、ベバシズマブはそのまま続けていく治療に切り替えることで、副作用の少ない期間を確保しQOLを改善して治療を継続できることがわかりました。また、内分泌治療が効かなくなったところで、パクリタキセルへ戻る工夫をすることにより、患者さんの生存期間を損なうことも避けられることもわかりました。

 この臨床試験は世界で初めて、進行・再発乳癌に対するスイッチ維持療法という治療方法が選択可能であることを示しました。


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