- 冨田 湧介 (とみた・ゆうすけ)
- 循環器内科学講座 助手
- 研究グループ
- 冨田湧介、安齋文弥、三阪智史、小河原崚、市村祥平、和田健斗、君島勇輔、 横川哲朗、石田隆史、竹石恭知
概要
論文掲載雑誌:「JACC:Basic to Translational Science」(令和5年10月8日)
タンパク質の翻訳後修飾は、プロテオミクスの多様性を高めるメカニズムとして心臓の恒常性維持に重要な役割を果たしていますが、その機能異常は心不全の発症につながります。N末端グリシンにミリスチン酸が結合するN-ミリストイル化は、N-ミリストイル転移酵素 (NMT) によって触媒され、蛋白質品質管理における役割を有していますが、心不全の病態におけるN-ミリストイル化の意義は未解明でした。本研究では、心臓におけるN-ミリストイル化の役割とその制御を明らかにすることを目的としました。
心筋におけるNMTの評価では、NMT1ではなく、NMT2の発現がマウスおよびヒトの不全心筋で有意に低下しており、心不全の病態におけるNMT2の意義が示唆されました。アデノ随伴ウイルス9 (AAV9) を用いて、マウス心臓に特異的にNMT2のノックダウンを行ったところ、大動脈縮窄による圧負荷心不全モデルにおいて、心機能障害、心筋組織の線維化、生存率の悪化を認めました。次いで、クリックケミストリーと定量的プロテオソーム解析を応用して、培養心筋細胞におけるN-ミリストイル化基質タンパク質の網羅的プロファイリングを行いました。結果、アンジオテンシン II (Ang II) 刺激によって最も減少したN-ミリストイル化蛋白質として、MARCKSを同定しました。MARCKSのN-ミリストイル化は、細胞膜への局在を標的とすることにより、CaMKIIとHDAC4のリン酸化、ヒストンH3のアセチル化を阻害し、Ang II誘導性心肥大において保護的に機能することを明らかにしました。最後に、AAV9を用いてマウスの心臓特異的にNMT2の遺伝子導入を行ったところ、圧負荷ストレス後、心機能障害、心臓リモデリング、生存率の改善を認めました。
心筋細胞におけるN-ミリストイル化は、病理学的心肥大および心不全の発症・進展において重要な役割を果たしていることが明らかになり、NMT2を介したN-ミリストイル化維持は、心不全に対する新規治療のアプローチになることが示唆されました。
(冨田 湧介)
連絡先
公立大学法人福島県立医科大学 医学部 循環器内科学講座
講師・三阪 智史
TEL:(024)547-1190/FAX:(024)548-1821
メールアドレス:misaka83@fmu.ac.jp(スパムメール防止のため、一部全角表記しています)