
- 氏家 大輔(うじいえ・だいすけ)
- 医学部 消化管外科学講座 博士研究員

- 松本 拓朗(まつもと・たくろう)
- 医学部 消化管外科学講座 助手

- 河野 浩二(こうの・こうじ)
- 医学部 消化管外科学講座 主任教授
- 研究グループ
- 【福島県立医科大学 消化管外科学講座】
氏家大輔、松本拓朗、遠藤英成、岡山洋和、藤田正太郎、菅家康之、渡辺洋平、花山寛之、早瀬傑、佐瀬善一郎、大木進司、河野浩二
概要
論文掲載雑誌:「Esophagus」(令和3年3月4日)
Stage II/IIIの食道扁平上皮がん(ESCC)患者においては、5FU+CDDPによる術前化学療法(NAC)後に根治手術を実施することが、本邦における標準治療であり、ガイドラインで推奨されている。この標準療法によって、本邦における5年生存率は55%であり、他国の5生率30-40%に比べ極めて良好である。一方、たとえ本標準治療による集学的治療が完遂できても、5生率は55%と未だ満足する成績ではなく、さらなる病態の分析と改善が必要である。
近年の細胞工学などの進歩により、血中を循環する遊離癌細胞(CTC)の同定が可能となり、定性的、定量的なCTCの解析を可能とするシステム(Celsee system)が確立した。このシステムでは、生きた癌細胞を鋭敏にトラップし、CD45, DAPI、Vimentin, cytokeratinの染色により、Epithelial CTCと Mesenchymal CTCを分類できる。そこで、当科におけるESCC患者40例を対象として、NAC前後で血中CTCをCelsee systemで解析し、予後因子との相関関係を考察した。
その結果、ESCC患者では、Stage Iを含めすべての病期でCTCが検出され、Stage毎に、CTCの量的、質的な差異を認めなかった(ちなみに正常人ではCTCの検出はない)。また、ほとんどの症例で、量的にはMesenchymal CTCが、Epithelial CTCに比べ優位であった。NAC前後の検討では、全CTC、Mesenchymal CTC、Epithelial CTCのすべてにおいて有意な変化はなく、NAC後にCTCの減少は認めなかった。これらの変化は、NACによる奏功群(PRとCR症例)と不応群(SDとPD症例)の間でも、特に有意な差異は認めなかった。しかし、術後の再発例と無再発例を比較すると、再発例では、NAC前の全CTC数が有意に増加しており、NAC後のMesenchymal CTC数が有意に上昇していた。特に、NAC前の全CTC数では、ROC曲線によるカットオフ値6.5を設定し、これにより術後再発の予後予測が有意に可能であった。
従来の概念では、NACはCTCを量的にコントロール、あるいは除去することにより予後に寄与するとされてきたが、本研究では、少なくとも5FU+CDDPレジメンでは、その効果は薄いことが判明した。また、NAC後のMesenchymal CTC数と再発が相関することより、NACによって質的なCTCの変化が惹起されており、術後再発の病態を解明するうえで、重要な知見と言える。今後のESCCの治療成績の向上には、LiquidバイオプシーとしてのCTC解析をバイオマーカーとして用いることが極めて重要である。
連絡先
公立大学法人福島県立医科大学 医学部 消化管外科学講座
電話:024-547-1111(代)
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