福島県立医科大学 研究成果情報

「Esophagus」掲載(令和3年3月4日)(2021-04-30)

Circulating tumor cells after neoadjuvant chemotherapy are related with recurrence in esophageal squamous cell carcinoma

術前補助化学療法前後における血中遊離癌細胞の解析は、食道扁平上皮がん患者における再発を予測できる

氏家 大輔(うじいえ・だいすけ)
医学部 消化管外科学講座 博士研究員

松本 拓朗(まつもと・たくろう)
医学部 消化管外科学講座 助手

河野 浩二(こうの・こうじ)
医学部 消化管外科学講座 主任教授

        
研究グループ
【福島県立医科大学 消化管外科学講座】
氏家大輔、松本拓朗、遠藤英成、岡山洋和、藤田正太郎、菅家康之、渡辺洋平、花山寛之、早瀬傑、佐瀬善一郎、大木進司、河野浩二

概要

論文掲載雑誌:「Esophagus」(令和3年3月4日)


Stage II/IIIの食道扁平上皮がん(ESCC)患者においては、5FU+CDDPによる術前化学療法(NAC)後に根治手術を実施することが、本邦における標準治療であり、ガイドラインで推奨されている。この標準療法によって、本邦における5年生存率は55%であり、他国の5生率30-40%に比べ極めて良好である。一方、たとえ本標準治療による集学的治療が完遂できても、5生率は55%と未だ満足する成績ではなく、さらなる病態の分析と改善が必要である。

近年の細胞工学などの進歩により、血中を循環する遊離癌細胞(CTC)の同定が可能となり、定性的、定量的なCTCの解析を可能とするシステム(Celsee system)が確立した。このシステムでは、生きた癌細胞を鋭敏にトラップし、CD45, DAPI、Vimentin, cytokeratinの染色により、Epithelial CTCと Mesenchymal CTCを分類できる。そこで、当科におけるESCC患者40例を対象として、NAC前後で血中CTCをCelsee systemで解析し、予後因子との相関関係を考察した。

その結果、ESCC患者では、Stage Iを含めすべての病期でCTCが検出され、Stage毎に、CTCの量的、質的な差異を認めなかった(ちなみに正常人ではCTCの検出はない)。また、ほとんどの症例で、量的にはMesenchymal CTCが、Epithelial CTCに比べ優位であった。NAC前後の検討では、全CTC、Mesenchymal CTC、Epithelial CTCのすべてにおいて有意な変化はなく、NAC後にCTCの減少は認めなかった。これらの変化は、NACによる奏功群(PRとCR症例)と不応群(SDとPD症例)の間でも、特に有意な差異は認めなかった。しかし、術後の再発例と無再発例を比較すると、再発例では、NAC前の全CTC数が有意に増加しており、NAC後のMesenchymal CTC数が有意に上昇していた。特に、NAC前の全CTC数では、ROC曲線によるカットオフ値6.5を設定し、これにより術後再発の予後予測が有意に可能であった。

従来の概念では、NACはCTCを量的にコントロール、あるいは除去することにより予後に寄与するとされてきたが、本研究では、少なくとも5FU+CDDPレジメンでは、その効果は薄いことが判明した。また、NAC後のMesenchymal CTC数と再発が相関することより、NACによって質的なCTCの変化が惹起されており、術後再発の病態を解明するうえで、重要な知見と言える。今後のESCCの治療成績の向上には、LiquidバイオプシーとしてのCTC解析をバイオマーカーとして用いることが極めて重要である。


連絡先

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