- 加瀬 晃志(かせ・こうじ)
- 医学部 消化管外科学講座 病院助手
- 齋藤 元伸(さいとう・もとのぶ)
- 医学部 消化管外科学講座 講師
- 河野 浩二(こうの・こうじ)
- 医学部 消化管外科学講座 主任教授
- 研究グループ
- 【福島県立医科大学 消化管外科学講座】加瀬晃志、齋藤元伸、中嶋正太郎、齋藤勝治、山田玲央、芦澤舞、仲野宏、花山寛之、小野澤寿志、岡山洋和、遠藤久仁、藤田正太郎、坂本渉、佐瀬善一郎、門馬智之、三村耕作、大木進司、河野浩二 【国立がん研究センター研究所 ゲノム生物学研究分野】高柳大輔、白石航也、河野隆志
概要
論文掲載雑誌:「Carcinogenesis」(令和2年11月)
胃癌の約10%を占めるEBV関連胃癌ではARID1AやPIK3CA遺伝子変異、さらにPD-L1を含む9p24領域の増幅といった特徴的なゲノム異常を認めます。また、EBV関連胃癌はDNAプロモーターの高メチル化やEBV-miRNA発現といったエピゲノム異常を伴うことから、EBV関連胃癌特異的な遺伝子の発現制御機構が存在することが近年の研究で明らかになってきました。
今回我々はEBV関連胃癌におけるARID1A癌抑制遺伝子の発現を司るエピゲノム異常の解明を試みました。ARID1A遺伝子は胃癌の約30%に失活型変異を認め、胃癌のドライバー遺伝子の一つです。DNAミスマッチ修復機構欠損(dMMR)胃癌とEBV関連胃癌においては同頻度のARID1A蛋白の発現低下を認めますが、dMMR胃癌でのARID1A蛋白発現低下例はほとんどの例でARID1Aの失活型変異を伴うのに対し、EBV関連胃癌ではその変異を伴わないことが多いことが知られています。本研究では、まず、NCBI GEOに登録されているマイクロアレイとTCGAデータベースからEBV関連胃癌とEBVを感染させた胃癌細胞のメチル化データと遺伝子発現データを抽出して解析をおこない、ARID1AはEBV感染にてもメチル化されず、そのmRNA発現も低下しないことを見い出しました。この結果より、ARID1A蛋白の発現低下は転写後修飾によって起きていることが示唆されました。そのため、我々は転写後修飾をもたらすmiRNAに着目し、ARID1Aに相補的に結合しうるEBV-miRNAをデータベースを用いた解析で同定しました(EBV-miRNA BART 11-3p とEBV-miRNA BART12)。実際に、これら2つのEBV-miRNAを胃癌細胞で過剰発現させたところ、ARID1AのmRNA発現は変動しないにも関わらず、ARID1A蛋白の発現は低下することが確認されました。最後に、当科で手術を行ったEBV関連胃癌検体におけるARID1A蛋白発現と遺伝子変異の有無、さらに2つのEBV-miRNAの発現量を調べて比較検討しました。その結果、EBV関連胃癌において、ARID1A蛋白発現が欠損している例ではARID1Aの失活型変異が認められましたが、一方で、ARID1Aの蛋白発現が減弱している例ではARID1Aの失活型変異は認められず、かつ、EBV-miRNAが高発現していました。以上より、ARID1A変異陰性EBV関連胃癌ではメチル化ではなくEBV-miRNAによってARID1A発現がエピジェネティックに制御されうることが明らかとなりました。
このEBV-miRNAによるARID1Aの発現抑制がどの程度発癌に寄与するかは現時点では不明ですが、EBV関連胃癌独自のARID1A癌抑制遺伝子の発現制御機構が存在することが、本研究の結果から明らかとなりました。
連絡先
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