福島県立医科大学 研究成果情報

米国雑誌「Journal of the American Heart Association」(2020年3月)(2020-04-01)

Impaired frontal brain activity in patients with heart failure assessed by near-infrared spectroscopy

近赤外線スペクトロスコピーを用いた心不全患者の前頭部活動低下に関する検討

一條 靖洋 (いちじょう・やすひろ)
医学部 循環器内科学講座 助手
        
研究グループ
一條 靖洋1、河野 創一2、義久 精臣1、三阪 智史1、金城 貴士1、及川 雅啓1、三浦 至2、矢部 博興2、竹石 恭知1
(1 循環器内科学講座、2 神経精神医学講座)

概要

論文掲載雑誌:「Journal of the American Heart Association」(2020年3月)


 心不全患者では健常者と比べ、うつ状態、不安障害、認知機能障害の合併率が高いことが報告されている。これらの精神的障害や認知機能障害は、疾病の自己管理能力にも影響を及ぼし、心不全患者における生活の質の低下や不良な予後と関連しているものと思われる。また、最近の報告では心不全患者における脳血流量の低下が自律神経や気分の変調、認知機能や言語機能の低下と関連している可能性が示唆されている。一方、日常臨床において測定可能な客観的な脳機能指標はない。近年、近赤外線スペクトロスコピー(near-infrared spectroscopy, NIRS)を用いて大脳皮質の酸化ヘモグロビン血中濃度の増減を測定することにより、脳血流と脳機能を評価する非侵襲的な検査が可能となった。そこで、本研究ではNIRSを用いて心不全患者における前頭部活動を評価し、対象群と比較検討した。さらに前頭部活動と抑うつ状態、不安状態および認知機能との関連について検討した。

 当院循環器内科に入院した心不全患者(心不全群、n=35)および非心不全患者(対象群、n=28)に言語流暢性課題(verbal fluency task, VFT)を実施し、課題間の前頭葉活動をNIRSにより評価し、2群間で比較検討した。また質問紙表を用いて、抑うつ状態に関する指標としてThe Center for Epidemiologic Studies Depression Scale(CES-D)、不安状態に関する指標としてState-Trait Anxiety Inventory (STAI-S)、認知機能に関する指標としてMini-Mental State Examination(MMSE)を評価した。

 心不全群では対象群に比して、NIRSによる前頭部活動は有意に低下していた(28.5 vs. 88.0 mM・mm, P < 0.001)。前頭部の活動性とCES-D、STAI-S、MMSE各指標との関連を検討したところ、前頭部活動とSTAI-S(R=-0.228, P=0.046)、MMSE(R=0.414, P=0.017)、VFTにおける語彙数(R=0.338, P=0.007)の間には有意な相関を認めた。一方、CES-D(R=-0.160, P=0.233)との間には相関を認めなかった。

 心不全患者では前頭部脳血流変化量が低下し、不安状態や認知機能低下に関連している可能性が示唆された。なお、本研究は、精神神経医学講座の先生方との共同で実施した。


連絡先

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