
- 前島 裕子(まえじま・ゆうこ)
- 医学部 病態制御薬理医学講座 准教授

- 下村 健寿(しもむら・けんじゅ)
- 医学部 病態制御薬理医学講座 教授

- 堀田 彰一朗(ほりた・しょういちろう)
- 医学部 病態制御薬理医学講座 講師
- 研究グループ
- 前島裕子、横田祥子、堀田彰一朗、下村健寿
概要
論文掲載雑誌:「Scientific Reports」(8月号)
人を含み、動物において幼若期とは最も成長が著しい時期であり、その成長を補うために成体動物と比べると体重に比して多くのエネルギーを必要とします。今回我々は幼若動物の食欲を促進するメカニズムを明らかにしました。
はじめに成体ラット(8週齢)と離乳直後の幼若ラット(3週齢)をそれぞれ2群に分けて普通食(嗜好性の低い餌)と高脂肪食(嗜好性の高い餌)を6日間与えました。高脂肪食を与えた成体ラットは普通食を与えた成体ラットに比べて摂取カロリー量が大幅に増加し、体重も増加しました。一方幼若ラットは普通食群と高脂肪食群において摂取カロリー量、体重ともに変化がありませんでした。このことから幼若ラットは嗜好性が低い、高いにかかわらず、摂取できる最大限のエネルギーを摂取する特徴を持つということが考えられました。
そこで我々は食べることによって得られる快感、すなわち報酬を司る腹側被蓋野と呼ばれる脳領域を調べました。この脳領域では興奮性のドーパミンニューロンと抑制性のGABAニューロンが混在する脳領域であり、ドーパミンは報酬的食欲を促進し、GABAニューロンはその報酬的食欲にブレーキをかけることが知られています。成体ラットと幼若ラットのドーパミン、GABAニューロンを調べるとドーパミンニューロン数や投射に大きな差はありませんでしたが、幼若ラットではGABAニューロンの数や、形態の未発達性が見られ、ドーパミンニューロンへの抑制性入力が少ないことが分かりました。さらに成体ラットの腹側被蓋野においてGABAニューロンを人工的に脱落させると、嗜好性の低い餌を与えても摂取カロリー量が増加しました。
このことから、幼若ラットは食欲にブレーキがかかりにくいために嗜好性が低い、高いにかかわらず多くの食事すなわちエネルギーを摂取して成長に必要なエネルギーを補っていることが分かりました。
今回の成果は誰に教えられたわけでもないのに「なぜ子供はたくさん食べるのか」という疑問を解明した研究になります。子供の肥満が現在世界中で問題になっています。その中には特異的な遺伝子異常等が原因となるものも含まれますが、今回の我々の成果から、発達環境、遺伝子等の原因により腹側被蓋野のGABAニューロンの未発達、発達遅延等により、食欲のブレーキがかかりにくくなるために成長に適した食欲を制御できずに過食・肥満を惹起する可能性も考えられます。本研究は将来的に小児肥満の治療ターゲットの可能性を提示したとも考えられます。
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