
- 志賀 哲也 (しが・てつや)
- 医学部 神経精神医学講座 博士研究員
- 研究グループ
- 志賀哲也、星野大、穂積宏俊、堀越翔、落合晴香、菅野和子、三浦至、矢部博興
今回の受賞について
日本薬物脳波学会
薬物の脳波変化が薬物の作用と密接に関係していることから、脳波変化による薬物の分類が試みられ、脳波変化の類似性から、作用未知の薬物の中枢作用予測が可能になり、新薬開発の一つの手段になるのではないかという考えのもと定量薬物脳波学という新しい学問領域が創設されました。1980年にはベルリンで国際薬物脳波学会が創設され、同学会は2年に一度、ヨーロッパを中心に総会が開催されています。また、日本では1990年に日本薬物脳波研究会という名称で発足し、以後毎年総会が開催されております。1997年に本研究会が「日本薬物脳波学会」に改組された後も、薬物の脳波に及ぼす影響についての研究発表と活発な討論が行われてきました。
賞について
日本薬物脳波学会における優れた発表に対して授与されるものであり、若手会員の研究を奨励し、斯学の発展に寄与することを目的としています。
概要
日本人のおよそ5人に1人が睡眠に関する問題を抱えていると言われています。現在、汎用されているベンゾジアゼピン系睡眠薬は、脳内に広範に存在するGABAA受容体に作用して催眠作用を発揮する一方で、記憶、注意機能、遂行機能、精神運動機能といった様々な認知機能に影響を及ぼすことが知られています。近年になって、こういった副作用を克服すべく、新しい作用機序を有する睡眠薬が開発されるようになってきました。オレキシン受容体拮抗薬であるスボレキサントは、その薬理的機序からも認知機能への影響は少ないことが予想されていますが、エビデンスがまだ不十分で、今後も検討が必要であると考えられています。
そこで、本研究では内服翌日の聴覚識別機能に及ぼす影響を、事象関連電位(ERP)と呼ばれる思考や認知の結果として計測された脳の反応から推定することを目的としました。ターゲットしたERPは、それぞれ意識的、無意識的な識別機能を反映するP300とミスマッチ陰性電位(MMN)です。
対象者がスボレキサント群、ロルメタゼパム群(ベンゾジアゼピン系睡眠薬の1つ)、プラセボ群の3群に分けられ、内服翌朝にERP測定とともに、注意・実行機能、処理速度を反映する神経心理検査であるDigit symbol substitution test(DSST)が行われました。
結果として、MMNの振幅は3群間で有意差が認められ、ロルメタゼパムはスボレキサントとプラゼボに比較してMMNの有意な減衰が認められました。また、P300の振幅とDSST得点については3群間に有意差は認められませんでした。
P300やDSST得点には有意差が認められなかったものの、MMN振幅を有意に減衰させた本研究の結果からは、MMNがベンゾジアゼピン系睡眠薬内服翌日の認知機能低下を鋭敏に反映しうる可能性が示唆されました。また、スボレキサントはこの機能に影響を及ぼさない可能性も示唆されました。
精神疾患や、向精神薬内服での自動車運転が関心となっている近年、罹患や内服を行っていても運転が安全に行えるのかという点でも、今後応用していきたいと考えています。
(志賀 哲也)
関連サイト
- 第21回日本薬物脳波学会学術集会
http://procomu.jp/jpeg2018/
連絡先
公立大学法人福島県立医科大学 医学部 神経精神医学講座
電話:024-547-1331/FAX:024-548-6735
講座ホームページ http://fmu-hpa.jp/neuropsy/
メールアドレス tetsuya3@fmu.ac.jp(スパムメール防止のため、一部全角表記しています)