福島県立医科大学 研究成果情報

オランダ科学誌「Journal of Psychiatric Research」掲載〔平成28年8月〕(2016-08-01)

Decreased VEGFR2 expression and increased phosphorylated Aktl in the prefrontal cortex of individuals with schizophrenia

統合失調症患者の前頭前皮質において  VEGFR2発現量が低下しリン酸化Akt1が上昇している

日野 瑞城 (ひの・みずき)
神経精神医学講座 特別研究員

研究グループ
日野瑞城1 國井泰人1 松本純弥1 和田明1 長岡敦子1 丹波真一1.3 高橋均3 柿田明美4 赤津裕康5.6 橋詰良夫5 山本左近5 矢部博興1
1福島県立医科大学 神経精神医学講座 / 2福島県立医科大学 会津医療センター 精神医学講座 / 3新潟大学脳研究所 病態神経科学部門 病理学分野 / 4新潟大学脳研究所 脳科学リソース研究部門 脳疾患標本資源解析学分野 / 5医療法人さわらび会 福祉村病院 長寿医学研究所/神経病理研究所 / 6名古屋市立大学大学院医学研究科地域医療教育学/地域療養医学
〔現所属〕
國井泰人 福島県立医科大学 会津医療センター 精神医学講座
和田明 東京大学院 医学系研究科 精神医学分野

        

概要

論文掲載雑誌: 「Journal of Psychiatric Research」 Volume 82,November 2016,Pages 100-108 〔2016 Aug. 3〕 統合失調症はおよそ100人に1人が罹患する頻度の高い病気です。 統合失調症発症の原因については様々な仮説が提唱されていますが、未だに十分には解明されていません。この病気に対するより効果的な治療法を開発する上で、発症メカニズムの解明は急務となっています。 Aktシグナル伝達系は細胞外からの刺激を受けて膜リン脂質の活性化を介し細胞の増殖・生存・運動・代謝の制御に中心的な役割を担っており、この伝達系の不調は統合失調症の病因の一つとして考えられています。 現在では精神疾患研究のためにiPS細胞やモデルマウスを用いることが多くなりましたが、ヒトの脳の中で実際に起こっている現象を解析するためには死後脳を用いた研究は依然として重要です。本学では平成9年(1997年)より神経精神医学講座を中心とした 精神疾患死後脳研究運営委員会 が日本初となる系統的精神疾患ブレインバンクを運営し、試料提供を行うことで国内の研究施設との間で共同研究を行っております。 本研究では本学ブレインバンクおよび新潟大学脳研究所で集積された統合失調症群 (19例) および健常対照群 (21例) の死後脳を用い、Aktシグナル伝達系の複数の構成タンパク質の発現量を測定して両群間で比較しまた。測定の結果、血管内皮細胞増殖因子受容体2 (VEGFR2 (KDR))が統合失調症群の前頭前皮質において有意に減少していました。さらに統合失調症群において前頭前皮質のVEGFR2発現量と生前の幻覚、妄想などの陽性症状の強さとの間に負の相関がみられました。これは生前に陽性症状が強く現れていた方では、より前頭前皮質でのVEGFR2の発現量が少なかったことを表しています。また、統合失調症群の前頭前皮質ではリン酸化Akt1が増加していました。 VEGFR2は細胞外からの血管内皮増殖因子(VEGF)による刺激を細胞内のAktシグナル伝達系に伝える因子です。VEGF-VEGFR2は血管新生に関わっていることから、統合失調症群の前頭前皮質でのVEGFR2発現量低下は、統合失調症では脳内の血液の微小循環系に異常があるとする仮説を説明するものと考えられます。一方でVEGF-VEGFR2は神経栄養因子としての機能もあることから、統合失調症におけるVEGFR2発現量の低下は神経細胞を保護する作用の低下につながっている可能性があります。VEGFR2の血管新生と神経保護のどちらの(あるいは両方の)働きがVEGFR2発現低下に伴う統合失調症に関わっているのか明らかにしていきたいと思います。 本研究では亡くなられた方の尊いご意思でご提供を受けた貴重な死後脳試料を用いさせていただきました。深く感謝申し上げます。

(日野 瑞城)


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