福島県立医科大学 研究成果情報

ミトコンドリア内c-Srcは呼吸鎖複合体のリン酸化を通して細胞生存を調節する(2012-10-15)

論文題名 Mitochondrial c-Src regulates cell survival through phosphorylation of respiratory chain components.
ミトコンドリア内c-Srcは呼吸鎖複合体のリン酸化を通して細胞生存を調節する
著  者 小椋正人、八巻淳子、本間美和子、本間好
雑誌名 Biochemical Journal
発行日 2012年10月15日
巻(号)、ページ 447(2):281-289
要   旨
ミトコンドリアは、エネルギーや活性酸素種(ROS)産生、さらには、細胞死制御に関わる細胞内小器官として知られている。
このミトコンドリアの機能制御には、呼吸鎖複合体をはじめとするタンパク質の翻訳後修飾が深く関与する。特にリン酸化が細胞のエネルギー産生を制御すると示唆されているが、分子メカニズムに関しては未解明な点が多く残されている。近年、c-Srcを含めた非受容体型チロシンキナーゼがミトコンドリア内において見出されている。本研究では、ミトコンドリア内c-Srcに注目した解析を行い、新規基質として呼吸鎖複合体IであるNADH脱水素酵素フラボタンパク質2 (NDUFV2)および複合体IIであるコハク酸脱水素酵素タンパク質A (SDHA)を同定し、リン酸化部位としてそれぞれY193、Y215を決定した。リン酸化部位変異体およびミトコンドリア移行シグナルを融合したキナーゼ機能欠損c-SrcK298M変異体発現細胞の解析から、NDUFV2Y193のリン酸化は、NADH脱水素酵素活性、酸素消費能およびATP産生に必要であり、一方、SDHAY215のリン酸化は、ROS産生の抑制に必要であった。さらに、これらのリン酸化が細胞生存と密接に連関することが明らかになった。
以上の結果より、ミトコンドリア内c-Srcは呼吸鎖複合体のリン酸化による効率的なエネルギー産生およびROS産生の抑制を通して細胞生存に必須の役割を果たすことが示唆された。