菊地臣一 コラム「学長からの手紙  〜医師としてのマナー〜

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113.医師としてのマナーを身に付ける前に、先ず社会人のマナーを

また人事異動の季節がやってきました。医局員の交替で、多くの医局員が出たり入ったりします。以前にも書きましたが、出ていく時には出ていく時の挨拶、戻って来た時には戻って来た時の挨拶が無い人が、以前ほどではありませんが、なお見られます。やはりこれは社会人として失格です。同じ様な事をY医大の教授も書いていますが、「勤務交替の挨拶が今もって無い。これは礼儀の問題だ」と叱り飛ばしたという事が、同門会誌に書いてあります。どこの大学でも同じ様な問題で困っているようです。

考えてもみて下さい。一般社会で転勤があった時には、転勤先および現在まで所属していた組織には、「色々とお世話になりました。有り難うございました」という挨拶をもって出発し、赴任先では「宜しくお願い申し上げます」という挨拶をするのが普通です。それで初めてコミュニケーションが成立する訳です。挨拶をしないという事自体は取るに足らない事です。でも世の中はこの取るに足らない事だけで、その人間を評価してしまうのも事実です。

前にも書きましたが、素晴らしい才能を持ち、いい人柄であっても、2・3回遅刻をすれば、「あいつはだらしがない」というレッテルを張られてしまいます。そのレッテルは独り歩きし、ついには何かの選択をする時に、それが基準の一つになってさえしまいます。その人間にしてみれば、そんな理不尽な事は無いと思いますが、逆にそれでは相手が遅刻をした時に、我々は彼は何故遅刻をしたのか真剣に事情を斟酌したり、聞いたりするでしょうか。否です。世の中これだけ忙しくなると、一つの事でもって全体を評価してしまう事もまた、やむを得ない事実なのです。簡単な挨拶だからこそ、おろそかにしてはいけないのです。

M医大の教授も同門会誌に「社会のルールを守ろう」と書いています。医者はどうも共同での社会生活を行うのに不適格で、わがままで、勝手気儘な所が目立つように思う。独り善がり、且つルールを守らない、そういう人が医者になったのか、医者の環境でそうなったのかは分からないが、先ず一社会人として出発する事が肝要ではないか」と述べています。まさにその通りだと思います。

S医大の教授は、やはり同門会誌に嘘のような話を載せています。「研修医が、研修先で派遣先病院の公式行事に加わらないで、車洗いをしている。5時過ぎは家族サービスタイムなので帰して欲しいと院長に申し出る。手術適応のなさそうな新患にはもう二度と来られないようなムンテラをする。検査や手術の前に不可欠なインフォームドコンセントを省略する。MRIなどの高価な補助診断法をどんどんオーダーし、患者の懐は考えない。患者から聞かれない限りはその結果を説明しない。手術は執刀させよと迫るが、術後のベッドサイドには近づかず、医局や詰所で雑談している。朝夕の病床巡りをしないし、適切なオーダーが出来ない。要するに全身全霊を傾けて診療していない」という苦情が派遣先の院長より教授に申し入れられたそうです。

Y医大の教授は、「週1回の出張診療の医師が、何時の間にか変わっている。挨拶もないから病院は分からない。教授としてきちんと躾をすべきではないか」という苦情が関連病院から申し入れられたそうです。やはり医師である前に、社会人として行動すべきなのではないでしょうか。

 

 

 

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