放射線看護専門看護師
災害医療(被ばく医療)を目指したきっかけ
2011年の福島第一原子力発電所事故がきっかけです。当時は手術部に勤務していましたが、放射線を意識することはありませんでした。様々な情報が溢れる中、何を信用すればいいか分からないまま過ごしたように記憶しています。そのような状況の中で、当時の看護師長から長崎大学の大学院を紹介され、放射線についてしっかり学びたいと思って進学を決めました。
看護部の計らいで、福島県立医科大学に在籍したまま、研修生として長崎大学病院放射線部に勤務し、夕方は社会人大学院生として講義を受けることができました。修了後も同じ職場に戻れるようご配慮いただけたことで安心して学ぶことができました。
災害医療(被ばく医療)における自身の役割
福島県立医科大学附属病院は「原子力災害拠点病院」「高度被ばく医療支援センター」「原子力災害医療・総合支援センター」であり、放射性物質による汚染がある傷病者や高線量被ばく患者に対する医療対応、他の原子力災害拠点病院への医療支援、高度専門教育研修を行う使命があります。
その中で私自身の役目は、被ばく医療や原子力災害医療における看護の啓蒙活動、教育をすることであると考えています。事故から約10年が過ぎ、放射線教育に関してもさらなる進展が必要です。スタッフ向けの研修は定期的に実施できている状況ですから、今後は看護管理者向けの研修を企画し、災害に備えていきたいと思います。
原子力災害は極めて発生頻度の低いものですが、一度発生すれば広範囲かつ長期に渡る影響を引き起こします。今後も被ばく医療、原子力災害医療を知ること、各フェーズにおける看護の役割や必要性について伝え続けたいと思います。
大切にしていること
私は、看護師も、放射線に対する適切なリスクの相場観をもつことが大切だと考えています。ICNでは「看護とは、あらゆる場であらゆる年代の個人および家族、集団、コミュニティを対象に、対象がどのような健康状態であっても、独自にまたは他と協働して行われるケアの総体である」と定義されており、被ばく医療の基本概念は「いつでも、どこでも、だれにでも最善の医療を提供すること」です。放射性物質による汚染の有無に関わらず、看護師は最善の看護を提供する必要があります。そのために放射線を正しく理解し、放射線による影響を正しくアセスメントし、適切に許容できることが重要です。
通常の看護において、被ばく医療・原子力災害医療の優先順位は決して高くありません。しかし万一の災害時には大きな不安が生じ、普段できている看護さえ躊躇してしまう事態が推測されます。いざという時に不安が少なくて済むよう、適切に患者対応できるよう、それによって職務満足度・自己肯定感が高くなるように、未来の笑顔を信じて日々取り組んでいます。