笑いと健康

笑いと健康

ストレス社会

 昔から「笑う門には福来たる」「Laughter is the best medicine」と言われているように東西を問わず、その効果が経験的に知られてきました。しかしながら、実際に笑いと健康・疾病との関連についての研究が盛んになってきたのはここ十数年のことです。 それでは、なぜ今、笑いと健康・疾病との関連が注目されるようになってきたのでしょうか?それには、ストレス社会と言われる現代の社会情勢が関連している可能性があります。


 近年の厳しい社会情勢が続く中、わが国の心理社会的ストレスは未だ高い状態が続いていることが予想されます。平成22年国民生活基礎調査によれば、わが国の12歳以上の約半数が日常生活におけるストレスや悩みを感じていると報告されています。また、平成19年労働者健康状況調査によれば、労働者の約58%が何らかのストレスを抱えていると報告されており、さらに、平成22年労働安全衛生基本調査では、メンタルヘルス上の理由により連続1か月以上休業した労働者がいる事業所の割合は5.9%に上り、前回調査時の2.6%の倍以上になっていると報告されています。心理社会的ストレスはうつなどの精神的疾患の原因になるばかりでなく、虚血性心疾患や脳卒中等の循環器疾患をはじめとする生活習慣病の発症・死亡にも深く関わることが報告されているため、速やかな対応が必要とされています。これまでの心理社会的ストレスに関する研究では、不安、怒り、うつ症状等のネガティブな感情および社会格差等のネガティブな社会状況が問題視され、それらの心理社会的因子と疾患との関連が研究されてきました。しかしながら、ネガティブな感情と疾患との関連が明らかになっていく中で、ネガティブな感情に対してどのように介入したらよいのかが問題点として挙げられるようになってきました。

ストレス

 一方、ネガティブな感情へ介入が困難であることが報告される中、それとは逆に笑い、生きがいなどのポジティブな感情へのアプローチが注目されるようになってきました。笑いは人生を楽しんでいることに関連していると考えられること、これまで経験的に健康に良いのではないかと考えられていたこと、日常生活の中で気軽に取り込めるものであること、そして、介入に対する費用がそれ程高くない(ここ重要です)ことから、ポジティブな心理指標の一つとして今後たくさんの研究が進むものと考えられます。

 ポジティブな感情や笑いに関する歴史上の記録はかなり前からあり、旧約聖書には「喜びのある心は病をいやすが、気分が沈むと骨まで枯れる」というように書かれています。すなわち、楽しい気分は病気を軽快させる効果があり、うつな気分が続くと死んでしまう、というような意味と考えられます。また、わが国では「天照大神(アマテラスオオミカミ)」の話がよく知られています。天照大神が天の岩戸に隠れて世界が暗闇になったとき、「天鈿女命(アメノウズメノミコト)」が奇妙な踊りを披露し、周りの八百万の神々を大笑いさせ、その様子を伺った天照大神を外に引き出しました。笑いが引きこもりを治した(?)最初の報告と言えるでしょう。

笑い

 笑いと疾病・健康との関連について報告されるようになってきたのは、ここ数十年のことであり、その先駆けになったものとして1970年代のノーマン・カズンズ氏による自分自身の経験報告があります。米国『サタデー・レビュー』誌の編集長であったカズンズ氏は、1964年49歳のときに強直性脊椎炎に罹り、痛みのために歩行もできず元の状態に回復する可能性は500分の1と宣告されました。従来の治療では痛みがとれなかったカズンズ氏は、笑いを取り入れた治療を開始し、数ヶ月後には元の職場に復帰できるまで回復しました。その経過をNew England Journal of Medicine誌に報告した以降、笑いが痛みに有効ではないかという検討がされるようになり、わが国でも落語による笑いが関節リウマチ患者さんの痛みの軽減に有効であることが報告されています。


 さらに、笑いは免疫系、内分泌系、循環器系によい効果があることが報告されています。笑うことによって免疫細胞の一つであるナチュラルキラー細胞活性を高める働き、糖尿病の患者さんの血糖値の上昇を抑える働き、動脈硬化の初期段階である血管内皮機能を良くする働き、及び自覚的ストレスやストレスの客観的指標である血清・唾液中コルチゾール及び唾液中クロモグラニンを減少させる効果などが報告されてきました。しかしながら、これまでの多くの検討では、短期間の笑いの効果をみたものがほとんどであり、笑いの長期的な効果をみた研究はこれまでほとんどありませんでした。

以上のような背景をもとに、我々はポジティブな心理社会的指標の一つとして「笑い」に注目し、笑いと健康との関連について疫学的に検討するプロジェクトを進めています。

(公衆衛生.76(4):319-321, 2012を改変)

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